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【新着論文】ヒト・イヌ・ネコの眼に潜む寄生虫“東洋眼虫”はアライグマを自然宿主とする

論 文 名:
Molecular characterization of oriental eyeworm (Thelazia callipaeda) detected from raccoon (Procyon lotor) and Japanese raccoon dog (Nyctereutes viverrinus) in Kanto region, Japan
和訳)関東地方のアライグマとタヌキから検出した東洋眼虫(Thelazia callipaeda)の分子特性
著  者:
土井寛大1,2、常盤俊大3、井本珠由3、周洵3、山崎文晶1、加藤卓也1、羽山伸一1
1.日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 野生動物学研究室
2.独立行政法人 森林総合研究所
3.日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医寄生虫学研究室
掲載雑誌:
Parasites & Vectors, 2023 Mar 30;16(1): 116.
doi: 10.1186/s13071-023-05736-x.
研究内容:
 東洋眼虫は、その名のとおり“目”の表面に寄生する線虫です。イヌやネコを終宿主※1とするほか、100例近い人への感染事例の報告もある人獣共通の寄生虫です※2。中間宿主※1はメマトイ類というハエの仲間で、目の周りにまとわりついて涙液を吸う性質があり、動物の眼から眼に東洋眼虫を運びます(図)。これまで東洋眼虫に感染した動物は、九州を中心とした西日本に多くみられていましたが、ここ最近、関東地方での症例が散発的に報告されるようになってきました。しかしながら、東洋眼虫がどのように分布域を拡大し、関東地方で見つかるようになったのかについてはよくわかっていませんでした。
 今回、2020年から2021年にかけて、東京都、神奈川県および群馬県において自治体の対策事業により捕獲されたアライグマを調べたところ、多くの個体が東洋眼虫に感染していることが明らかとなりました(感染率:20.2%)。さらに、アライグマから検出した東洋眼虫の遺伝子配列を解読し調べてみると、3系統に分類することができました。この3つの系統は、これまで日本国内においてヒトやイヌ、ネコなどから報告されているものと同一の系統でした。これは、アライグマにみられた東洋眼虫が、動物の種を越えて、ヒトやイヌ、ネコにも感染していることを意味しています。以上のことから、自然宿主※3としてのアライグマの存在が、関東地方において東洋眼虫がみられるようになった要因のひとつではないかと考えられました。
 アライグマは北米原産の雑食性の食肉類で、農作物や自然生態系に被害を及ぼすことから外来生物法において特定外来生物に指定されています。近年、アライグマは生息地を広げ、都市部での目撃情報も増えています。一方、中間宿主となるメマトイ類は、低地の樹木等のある場所に生息するため、住宅地の公園でも遭遇することがあります。関東地方では、アライグマとメマトイ類が共存でき、東洋眼虫が存続可能な環境が成立していることから、感染したメマトイ類を介して、イヌやネコ、ヒトへの感染機会が生じるリスクがあると推察されます。
  • ※1 寄生性の線虫は、卵から幼虫、成虫の順に発育します。これらの発育段階のうち、成虫が寄生する宿主のことを終宿主、幼虫が寄生する宿主のことを中間宿主と呼びます。
  • ※2 動物の眼の表面に寄生しますが、動物からヒトに直接感染することはありません。また、眼球の中や、内臓には侵入しません。眼の掻痒や炎症がみられ、治療は(獣)医療機関で虫体を摘出することで実施されます。
  • ※3 ここでは、自然環境下において、寄生虫と共存する宿主のことを自然宿主として表記しています。

▲①眼球結膜に東洋眼虫の成虫(矢印)が寄生します。②涙液中には東洋眼虫の成虫が産出した幼虫がみられます。
③中間宿主であるメマトイは、涙液ごと幼虫を摂取することで感染し、④ヒトやイヌ、ネコに媒介します。

■研究者情報

常盤 俊大(獣医学部 獣医学科 獣医寄生虫学研究室・准教授)
加藤卓也(獣医学部獣医学科 野生動物学研究室・講師)
羽山伸一(獣医学部獣医学科 野生動物学研究室・教授)