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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第113号:富士アニマルファームに期待する

山田 裕(特任教授)

2014/07/10 更新
 本学の所在地は、武蔵野市境南町1丁目7番1号で、ホームページには中央線武蔵境駅から「たったの2分」と記されています。しかも「たったの」の文字が強調されて…。しかし、その地の利が大動物の飼育にとってはネックになっています。武蔵野市に問い合わせたところ、建築基準法上この場所は畜舎の建築はできないが、本学の場合は敷地内であれば「教育研究施設」として動物の飼育施設の建設は問題ない、とのことでした。法律上は問題がないといっても、周囲は商業施設と住宅にすっかり包囲されています。この環境で大動物を飼育した場合、臭いと鳴き声などに関して余程の対策を立てておかない限り苦情が出てくるのは目に見えています。そういう状況下で、獣医学部獣医学科と獣医保健看護学科、生命科学部動物科学科のカリキュラムには牧場実習が組み込まれています。とりわけ獣医学科では総合臨床実習の一環として、大動物臨床実習が課されており、産業動物に触れずに卒業することはできません。
 この様な中で、産業動物を飼育している施設ー富士アニマルファームが本学の一施設として存在していることは、大きな意味があります。都会育ちがほとんどの学生にとって産業動物は未知の動物で、しかも「大きい!」。最初は動物を「診察・治療する」以前の問題で、まず触れることから始まります。当然、皆へっぴり腰でしかも危ない位置にでも平気で立っています。立っているのはまだマシで、しゃがみこむのがいて、とても見ていられません。しかし、これが本学の牧場であるのがせめてもの幸いで、もしもこの状態が産業動物の臨床現場つまり農家であったら、と思うと背筋が寒くなります。この牧場が存在していること自体が、とても有難いと思います。
 ところで、富士アニマルファームは教育、研究、生産、社会貢献という四つの指針を掲げています。牧場が定めた指針に対して、外部の人間があれこれとくちばしを差し挟むのはいかがなものかとは思いますが、その取り組みに関する私の希望は次の通りです。
 まず、指針の優先順位は先に記した順番(教育、研究、生産、社会貢献)であってほしい考えます。つまり、飼育しているすべての動物の飼育目的が実習用であって欲しいと思います。勿論、飼育動物は研究にも提供しますが、農家にとっては最重要事項の生産活動である牛乳販売による収入は、あくまでも付随的なもので、乳量が減るので、あるいは妊娠しているのでという理由で実習に用いないのでは、本末転倒ではないかと思います。獣医学科の学生は、現場の診療所で獣医師に同行して実習を行います。その時に対象となる牛がお産の直後であったり、直後どころか難産だったり、妊娠牛だったり様々な状態にあります。現場の実習では色々な状況下の牛を対象とするけれど、自分の大学の牛は条件を付けて実習に使わせないということがあっては困ります。勿論、実習内容や学生の習熟度によって制限があるのは当然で、牛乳を出荷している牛を手術実習に使う、などあってはならない話です。
 社会貢献については、門戸を開放し牧場利用の要請に応え、あるいは本業(教育・研究)に差し支えない範囲で積極的な提案を行って社会貢献に努めると共に、牧場の存在をアピールして頂きたいと思います。
 そして、これこそ外からあれこれ口出しすべきことではないと思いますが、年間の飼育計画・繁殖計画をしっかり立て、無駄のない実習牛の利用計画を立てて頂きたいと思います。例えば大動物臨床実習のように、開腹手術の実習を行い最終的には実習牛を売却する場合と、必ずしも最終的に売却しなくても済む場合があります。牧場の年間飼育計画が立てられていれば、淘汰予定牛を実習牛として提供し、不足分を実習を目的として最終的に淘汰する牛として購入する。牧場からの提供牛(計画淘汰牛脂)は、生産を目的とした牛を購入する。あるいは、自家育成牛で補充できる可能性もあります。
 実習目的だけのために牛を導入した場合、日常に飼育して居る家畜以外に動物が増え、当然その作業も増え負担が増えます。また、年間の実習スケジュールを見ると春から秋にかけて、非常に多くの実習が組まれており、受け入れ側としての対応は並大抵のことではないと思います。しかし、そこは家畜初心者の学生を一人前に育てるためご協力をお願い致します。
 ここでもうひとつお願いがあります。それは、安全な個体を揃えて欲しいということです。動物には個性が有ります。おとなしく人に良くなれる個体も居ますが、逆に人に触れられることを嫌う個体もあり、中には近寄るだけで攻撃的態度を取るものもいます。家畜取り扱いの初心者が実習する富士アニマルファームで飼育される牛は、「人が触れても嫌がらない」のが最低条件と考えます。動物に馴れていない本当に初歩の段階の学生は、実習用の設備が整った場所で人に馴れた動物に触れることが大切と考えます。この段階で危険な目に遭うと、それ以後の実習に支障が生じる可能性があります。日常の飼育管理で多忙な中、大変だとは思いますが、ぜひ実習に使いやすい牛を育てて頂きたい、とお願い致します。
 学生にとって、一般農家と同様に生産(牛乳を出荷)している施設で実習できることは、大変重要なことです。一般農家で飼育されている動物を実習に用いることは、生産性の低下などの危険性があるため不可能です。逆に、教育研究のためだけに、言い換えると生産に結びつかない動物を飼育していたのでは、実習期間以外は飼育することが目的となってしまい、管理者のモチベーションを維持するのは難しいと思われます。また、そのような施設で実習したのでは、シミュレーションとしての価値が低下してしまいます。
 獣医学科の学生は教育の一環として、参加型実習が義務づけられています。この実習において、学生は産業動物の診療に携わっている獣医師に同行して実際の農家を訪問します。この時に農家と同じ施設で飼育され、同じように牛乳を搾って出荷している富士アニマルファームにおける実習経験が大きな支えとなります。
 本学における産業動物臨床学教育を推進するために富士アニマルファームは大変重要であり、そのパートナーとして活躍して頂くことを期待しています。