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第170号:白馬のアンダルシアン

吉村 格(教授/牧場長)

2017/01/18 更新
 今から40年も前、大学を出たばかりの若い私は南米のいわゆる開発途上国で7年近くを過ごした。片言のスペイン語と中途半端な馬乗りの技術でカウボーイの真似事をして薄給の身に甘んじていた。自分の若ささえも認めなかった「ないものねだり」の私は、いつかは本場スペインに赴き、情熱的なセニョリッタとマドリードやバルセローナの街を徘徊し、スペインの宝石と言われるスペイン馬(アンダルシアン)に会うことを夢想した。ヘレス・コルドバ・セビリアなどの馬産地を巡り、多くの雌馬達を束ねるスタリオンに挨拶したかった「como esta viejo Quijote ?」(年老いたドン・キホーテ ご機嫌いかが?)と。
 牡牛に闘いを挑み「真実の瞬間」を求める誇り高きスペインの闘牛士が跨がるのはアンダルシアンである。現代の地球上の様々な品種に最も影響力を及ぼしたのは、品種の水源とされる中東の美しいアラブ馬、そしてタフで健康的な北アフリカのバルブ馬であろう。次に続くのはそれらの伏流水として世界中に拡がったアンダルシアンの血である。その気高い馬の子孫にはリピッツァナー、フリージアン、クリーブランド・ベイ、ウェルシュ・コブなどが挙げられる。今思えば、私が南米の地で牛追いのために跨がっていたクリオージョは16世紀にスペイン人によって持ち込まれたその血の支流であろう。
 世界に拡がったアンダルシアンの血脈は、走りは速くはないが非常に力強く持久力があって、性質は敏捷でありながら従順である。それらの能力は、新世界にやって来た入植者によって牧畜という馬との協働を開始させ今日に至っている。また開発途上国においては、森林や沼地など作業機械が入らない多くの場所で欠かすことが出来ない労働力として貢献している。一方先進国においては、天性の身体のバランスとリズミカルな歩様、推進力のある速歩と滑らかな駈歩、従順な性質とが相俟って、高等馬術用の乗馬としてアンダルシアンは確かな地位を築いている。
 人生の巡り会いは不思議なものだ。あれほど若い頃に恋い焦がれ憧れていた馬、懐かしい思い出の中にしかなかった「アンダルシアン」が縁あって富士アニマルファームに新しい仲間として加わった。名前はパルマス号。2001年生まれ。美しい芦毛の牡馬である。この馬は中央競馬会の元所有馬で馬事公苑などで高等馬術を演じていたが、残念なことに前肢の故障が完治せず、痛み止めを打たなければ十分な運動が出来なくなっていた。富士アニマルファームでの生活も既に2ヶ月、蹄鉄をはずし他の馬との放牧を続けてきたが随分と走り廻れるようになった。どこまで回復するかは分からないが「憧れの馬」である、大切にしたいと思っている。今年の実習では富士山を背景に白馬に乗った学生達の勇姿を撮りたいものだ。