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野生動物に興味がある人のために

准教授 桑原 考史(食料自然共生経済学教室)

 野生動物のことが好きで勉強したい、できれば野生動物にかかわる仕事に就きたい。本学科に入学してくる学生さんの中には、そんな動機や希望を抱く人が少なからずいるようです。
 私の専門は農業経済学ですが、これまで野生鳥獣害や生物ブランド米といった研究テーマに取組んできたこともあり、例年、1年次前期のオムニバス(持ち回り)講義では野生動物を話題に取り上げています。
 といっても、サバンナのライオンや大海のクジラなどについて論じるわけではありません。もっと身近な国内の野生動物、たとえばイノシシやシカ、コウノトリ、トキといった動物たちにスポットを当てます。これらの動物は、人里離れた奥地や原生自然の中にひっそり暮らしているのではなく、里山と呼ばれるような、人間の活動領域に近く、かつては人の手が入っていた環境で生息しています。

▲人工巣塔とコウノトリのつがい、水田、集落、
里山が一体となった風景

 場合によっては餌や生息地を求めて農地や集落にまで進出してきたりもします。イノシシなどは、いわば隣人なのですね。
 隣人であるところの動物たちと、人間がうまく折り合えればいいのですが、簡単ではありません。一例を挙げます。集落や田畑には動物たちにとってこの上なくおいしい餌が豊富にあり、イノシシやシカ、サル、クマなどはそれを狙ってきます。
 とはいえ、放置している果実や二番穂(稲刈り後に出てくる穂)など人間にとって利用価値の低いものだけを動物が食べるなら、人間はそれほど困りませんね。困るのはこれから収穫しようとする作物を食べたり、田んぼの畦(あぜ)や果樹にダメージを与えたりする場合です。これらは「獣害」と呼ばれます。
 ここで大事なのは、動物は、人間が困る餌かどうかを区別できない、する理由もないということです。区別するのはあくまでも人間側です。人間が自分たちの都合で、そっちは食べられてもいい(獣害じゃない)けどこっちは困る(獣害だ)、と判断するわけです。

▲侵入防止柵が張り巡らされた水田

 獣害というのは一見動物が一方的に起こしているようだけれども、実は人間側の都合に基づく困りごとである、少々難しくいえば社会的な現象である、ということになります。問題を解決するためには、動物を何とかする(捕まえる、とか)だけでなく、人間社会のありようを問いなおし、改善することも考えなくてはいけません。では、何をどのように改善すればいいのでしょうか。実際に野生動物に向き合っている・向き合わざるをえない農村の人びとは、どんな取組みをし、どんな課題を抱えているでしょうか。
 こうして、話は次第に動物から人間、社会へと展開していきます。講義の本当の「主役」は野生動物でなく人間だった、というわけです。獣害のような困りごとだけでなく、コウノトリやトキといった希少種の保全活動についても同じです。
 野生動物に関心のある皆さんには、ぜひこうした発想を身につけ、動物とともに人間や社会についても理解を深めてほしい。そんな期待を込めながら毎年講義をしています。

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