センター長の挨拶
人と動物がともに健康で幸福に暮らす共生社会を目指して
ワンヘルス・ワンウェルフェアセンター センター長 鈴木 浩悦

日本獣医生命科学大学は、殖産興業政策のもと畜産業の振興が急務とされた明治14年(1881年)に、日本初の私立獣医学校として開学しました。2031年には創立150周年を迎えます。設立当初の教場は文京区音羽の護国寺にあり、この寺は「生類憐れみの令」を発布した徳川綱吉が建立した名刹として知られています。
本学の学歌の一節には、「人の世恵む鳥獣を愛しみ護るも国のため、敬譲相和ゆるみなく、愛と科学の聖業にいそしむ日々ぞ栄あれ」と謳われています。本学は「敬譲相和」を学是とし、これは共生社会の実現を目指す現代において、より一層重視されるべき理念です。また、本学の到達目標である「愛と科学の聖業を培う」とは、動物を護り育てること、そしてその理念と技術を持つ人材を育成し、社会に貢献することを意味しています。
近年、世界的な環境の変化や人獣共通感染症の脅威が顕在化するなかで、人と動物の関係をより深く考え、持続可能な共生のあり方を追求することが求められています。「ワンヘルス(One Health)」とは、人の健康、動物の健康、そして環境の健全性が密接に関連しているという認識に基づき、これらを一体的に向上させようとする概念です。新興感染症や人獣共通感染症の拡大、抗菌薬耐性菌の出現、生態系の変化などのグローバルな課題に対応するためには、ワンヘルスの考え方に基づき、総合的なアプローチをとることが不可欠です。
また、「ワンウェルフェア(One Welfare)」は、人と動物の福祉が密接に結びついており、両者を調和させながら向上させる考え方です。家畜、伴侶動物、野生動物を含む動物福祉の向上は、社会全体の倫理観の成熟を反映するとともに、公衆衛生や食品安全、畜産現場の生産性向上、持続可能な資源の利用に貢献します。さらに、動物介在療法(アニマルセラピー)などを通じて人々の心身の健康や社会福祉の向上にも寄与します。このように、人と動物の健康と福祉は切り離せないものであり、より良い共生社会の実現には「ワンヘルス」と「ワンウェルフェア」の両視点が不可欠です。
こうした背景のもと、本学は「ワンヘルス・ワンウェルフェアセンター」を設立することとしました。本センターは、「動物福祉を念頭に、人と動物が健康で幸福に暮らせる世界の実現」を目指します。本学には、ワンヘルス・ワンウェルフェアの分野で先進的な研究・教育を推進し、すでに学術的・社会的な牽引役を担う教員が多数在籍しています。本センターの設立は、こうした本学の活動をさらに発展・加速させ、研究の一層の活性化を図ることを目的としています。
さらに、公的機関、関連業界、団体、自治体、他大学との連携を深め、幅広い理解と支援を受けながら、大学全体でミッションの達成に取り組みます。そして、得られた研究成果を教育や社会活動のさまざまな分野へ広く普及させ、社会の発展に寄与することを目指します。
沿革・目的
ワンヘルス・ワンウェルフェアセンターは、「人と動物が健康で幸福に暮らすことのできる社会の実現」に向け、学内外で連携して推進するためことを目的に、2025年1月に設置されました。武蔵境駅近くの立地条件に恵まれた第二校地を有効に利用し、周辺地域及びワンウェルフェアに貢献する教育と研究の拠点を創出します。
「ワンヘルス」とは人と動物の健康、「ワンウェルフェア」とは人と動物の福祉が、それぞれ環境と相互に連動しているという概念であり、本学はその誕生の経緯や、学是、教育理念から、動物の健康と福祉を科学的に解析し、本学の研究や教育、社会活動などの様々な場面にこの概念を取り入れ、本学がこの分野の教育と研究をリードし、社会に貢献することを目指しています。
そして、本学では個別のレベルでは既にワンヘルス・ワンウェルフェアに関連した教育・研究や社会活動を様々な形で行ってきておりますが、それらを大学として支援していくためにも、同センターを設置することでその活動を社会に発信し、さらなる連携や支援の獲得へと繋げられるよう、「伴侶動物部門」「産業動物部門」「野生動物部門」の3つの部門を同センターに設置いたします。

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