教員からのレポート Report

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卒業前のもう一仕事 卒業論文作成の取り組み

教授 牛島 仁(動物生殖学教室)

 ここに前任の先生から受け継いだ研究室開設以来の卒業論文が陳列されています。卒業論文は卒業に必要な総取得単位数128の僅かに4単位ですが、2年間をかけて成果を論文に纏める作業が求められ、学生・教員双方にとって最も労力を要する必修科目単位です。本学科では4年生で卒業論文作成に集中してもらうため、3年生までに大部分の単位を取得することが学科の進級の要件に盛り込まれています。今日は卒業式、胸を張って午後の式典に臨むため、早朝から卒論最終稿の提出に向けて奮闘する一人の学生がいます。教員が改訂原稿を受理すれば、晴れて大学を卒業した“学士”の称号を得ることが出来ます。

 卒業論文の取り扱いは大学、学部、学科、研究室によって異なるようです。生殖学教室は2月の発表会が終了した後、学会への投稿スタイルに準じた緒言・材料と方法・結果・考察・謝辞・引用文献から構成される卒業論文を提出することになっています。卒業生の中には第一線で活躍する研究者や大学の教員もおり、卒業論文が学会誌等に掲載されることもあります。テーマや実験結果はさまざまで、完成までに教員と学生間で少なくとも数回のやり取りがあります。どんなに優秀な研究者であっても初めの1歩は目を覆いたくなるような文章です。赤ペンが入った返却原稿と資料を広げて格闘する光景は、初春から早春にかけての風物詩です。

 開設当初から飼育されているハタネズミに関する卒業論文は、AO機器が無い時代のため直筆で書かれており、腟垢像の観察やホルモン量の測定が題目です。それから40年を経た最近では、手術しないで受精卵を採取する技術開発や、体外受精・凍結保存などが題目になりました。卒業生の研究の積み重ねにより、ハタネズミでも生殖補助技術の利用が可能になり、マウス・ラットのように実験動物として利用できる未来が見えはじめました。

 一方で、卒業論文指導を簡略化する動きや、選択科目に置き換える大学も残念ながら増えているようです。学生が真剣に取り組みながら成長する姿、改訂原稿で文章が見違えるほど上手くなる様子、巣立った卒業生の報告書の評判を聞くたびに、卒業論文は人間を育てる大切なツールとして残しておいてほしいと願うばかりです。

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