教員からのレポート Report

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はじめまして

助教 前田 友香(動物栄養学教室)

 10月から動物栄養学教室に配属されました、前田友香です。どうぞよろしくお願いします。今回は、この場をお借りして私が研究していることを紹介させていただきたいと思います。

 皆さんは黒毛和種という牛の品種をご存じでしょうか。
黒毛和種は、和牛と呼ばれる日本固有の肉用牛品種の一種で、脂肪交雑、いわゆる「サシ」が入りやすい特徴があります。最近では、「サシ」の入った和牛肉は海外からも高い評価を受けており、日本からの牛肉輸出量は年々増加しています。

 このような脂肪交雑に優れる黒毛和種の牛肉は、育種改良による遺伝的能力の向上に加え、その能力を最大限引き出すために穀物を主原料とする濃厚飼料を多給する飼養管理によって生産されています。濃厚飼料は、乾草や生草などの粗飼料と比べ、デンプンなどの消化しやすい成分が多く含まれており、飼料効率が良い飼料です。しかし、濃厚飼料多給による第一胃(ルーメン)内発酵の亢進や粗飼料不足による反芻や唾液の減少は、ルーメンpHが低い状態を長時間継続させます(潜在性ルーメンアシドーシス)。
 ルーメンpHが低下すると、繊維分解菌やプロトゾアが減少し、繊維の消化率が低下します。また、グラム陰性菌がpH低下により死滅すると、その外膜を構成する成分であるリポポリサッカライド(LPS)がルーメン内に多量に放出されます。このLPSが低pHにより損傷した胃壁などから血中に移行すると、全身性の炎症反応を引き起こし、牛は食欲不振、元気消失、糖代謝異常など様々な症状を呈します。近年の研究では、濃厚飼料多給がルーメン内のみならず大腸内でも発酵を亢進させ炎症反応の誘因となることが分かってきています。

 このように、黒毛和種の肥育は生産性低下のリスクが高い飼養体系となっています。「じゃあ、濃厚飼料やらなきゃいいじゃん」と思うかもしれません。しかし、現在の私たちの豊かな食生活は、濃厚飼料を活用した生産性の高い畜産業によって支えられていることを忘れてはいけません。一方、昨今穀物価格は継続的に高騰しており、肥育経営を圧迫していることも事実です。今後は、限られた飼料資源で生産性を最大化する技術が求められます。その技術の1つとして、濃厚飼料多給が消化管内発酵へ及ぼす影響を理解し、それらとうまくつきあう効率的な生産技術があると考えます。そのために、私は、肥育牛の栄養摂取、飼料消化性およびルーメン内発酵と生産性との関係について研究をしています。

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