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なぜ動物名はcow, ox(牛)で食用肉はbeef(牛肉)なのでしょう?

准教授 鴇﨑 敏彦(英語学教室)

 この「A-Report」をご覧の皆さんは、きっと動物のことに興味を持っている方々ばかりでしょう。その動物に関する英単語を学習してきた中で、ふと疑問に思ったことはなかったでしょうか?今回は、多くの方が感じたことがあるであろう疑問の1つ、「なぜ動物名はcow, ox(牛)で食用肉はbeef(牛肉)と言うのでしょうか?」にお答えします。

 英語において、動物名と食用肉で異なる単語を用いるようになった背景には、英国の歴史が大きく関係しています。フランス北西部の公爵であったノルマン人のウィリアムが英国を征服し、英国王ウィリアム1世として即位したのは1066年のことでした。ノルマン人はフランス語を使用していたので、イギリスの公用語もフランス語となり、その後、約200年間は、宮廷や議会、法廷などの公式な場では、フランス語が使用されていました。

 この間、英語は英国の表舞台からは姿を消すことになりましたが、一般庶民の間では使われ続けていたのです。そして、食用肉のために動物を家畜として飼育していたのは一般庶民であり、調理された食用肉を食べるのは、上流階級のフランス系貴族であることが多かったため、動物名には古英語(450年頃~1100年頃の英語)に由来する語を用い、食用肉にはフランス語に由来する語を用いるようになったと言われています。動物名を表すcow, ox(牛)は古英語から伝わる本来語で、食用肉を表すbeef(牛肉)はフランス語からの借用語なのです。このように動物名と食用肉で異なる単語を用いるようになった例を下記の表にまとめてみました。


動物名 ※古英語に由来 食用肉 ※フランス語に由来

cow, ox beef
子牛
calf veal

swine (pig) pork, bacon

sheep mutton
鹿
deer venison

 1100年頃~1500年頃の英語を中英語と呼んでいますが、この中英語の時期に英語に取り入れられたフランス語の数は、約1万とも言われています。多くの方が、英語には同義語や類義語がたくさんあると感じていると思いますが、この時期のフランス語の大量導入がその要因の一つとなっています。例えば、「終わらせる、終わる」という意味の英単語というとendとfinishの2つの動詞が思い浮かびますが、endは古英語から伝わる本来語であり、finishはフランス語からの借用語で、英国で使われ始めたのは1350年頃からなのです。このように、英語は、フランス語を始めとして、他にもラテン語など様々な言語から単語を取り入れながら、現在の姿に至っているのです。

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