教員からのレポート Report

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新しいことに触れてみましょう

講師 石原 慎矢(動物遺伝育種学教室)

 JAXAの宇宙飛行士候補者の募集要件に「日本人の宇宙飛行士としてふさわしい教養等(美しい日本語、日本文化や国際社会・異文化等への造詣、自己の経験を生き生きと伝える豊かな表現力、人文科学分野の教養等)を有すること。」というものがあります。この要項を見たのは十年以上前だったと思います。その後、ISS滞在の宇宙飛行士が地球からの物資を受け取って「(送られてきた)物資はまるで宝箱のようだった」と英語で言っているニュースがありました。あの要項で言っていた表現力というのは、こういうことも含まれるのだろうなと感じました。

 みなさんは「やばい」という表現を使うでしょうか。おそらく本来の意味を逸脱し、ポジティブな状況にもネガティブな状況にも使用し得る、汎用性の高い表現です。お祭りの露店で売られていた小物に対し、英語圏の少女が「Oh my god! Oh my god!」(おそらく「可愛い」の意)と連呼していましたので、それに近いニュアンスかなと勝手に思っています。日常の会話で使用する分には問題ありませんが、大学や仕事などの場面で多用すると、具体的な情報を伝えきれず、不自由することもありえます。また、真に感動した時、詳細に言語化できたほうがその感動自体の価値を高められる気がします。もし、宇宙飛行士のガガーリンが「地球はやばかった」と言ってしまったら、台無しでしょう。

 しかし、考えたことや思っていることを咄嗟に言葉にするのは意外に難しいものです。ある程度見聞きしたことがある表現でない限り、ゼロから新しい表現を作るのは難しいでしょう。また、日々のアウトプットの積み重ねも大事です。今回、皆さんに伝えたいのは、普段と違うものに触れる機会を増やしてほしいということです。いろいろな方法があると思いますが、電車での移動時間などを利用して読書をしてみるのはいかがでしょうか。小説でもエッセイでも専門書でも良いと思います。読書習慣のない人は、短いものから始めるといいでしょう。個人の感想ですが、動画や漫画は視覚的情報が多いため、受け身になりがちですが、活字は考えながら読む要素がある程度必要だと思います。文字列から情報を伝えなければならないため、必然的に言語としての表現が具体的になり、それを読むことが皆さんの表現の幅を広げることにつながります。卒業論文、プレゼンテーション、あるいは就活での面接で役立つかもしれません。また、人との交流の場において共通の話題にもなり得るでしょう。

 これらは読書から付随的に得られるメリットで、私自身は単純に読書が楽しいから本を読む、で良いと思います。学生時代は、それなりに小説を読みました。中には一気に読んでしまいたくなる作品もあるので、学生時代にそういうものに出会えると幸運ですね。東野圭吾、伊坂幸太郎、村上春樹らの作品は、大体読みやすかったですし、友人らと貸し借りなどもしていました。中島らもの『ガダラの豚』、貴志祐介の『新世界より』、鈴木光司の『リング』『らせん』『ループ』などは面白くて一気読みしました。最近はあまり小説を読めていませんが、『三体』や『プロジェクト・ヘイル・メアリー』など、海外作品も面白かったです。これは読んでおいたほうがいいという小説があれば、ぜひ教えてください。

 単純な指示代名詞や「やばい」で済ますことなく、少し違う表現をしてみると、世界や価値観が広がるかもしれません。ぜひ、夏休みを活用して読書をしてみてください。




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