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日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

【新着論文】毎日1時間の水素ガス吸入が自律神経を調節して高血圧を改善する!

論 文 名:
Daily inhalation of hydrogen gas has a blood pressure-lowering effect in a rat model of hypertension
和訳)水素ガスの毎日の吸入は高血圧モデルラットの血圧を下げる効果がある
著  者:
菅井和久1、多村知剛2、佐野元昭2、上村静香1、藤澤正彦1、勝俣良紀2、遠藤仁2、吉澤城2、本間康一郎2、鈴木昌2、小林英司2、袴田陽二1
1 獣医保健看護学科・基礎部門・生体機能学研究分野
2 慶應義塾大学・医学部
掲載雑誌:
Scientific Reports, 2020 Nov 26
Nature Research
DOI: 10.1038/s41598-020-77349-8
研究内容:
 獣医医療において、ネコの腎臓病の発症リスクが加齢に伴い上昇することがよく知られています。腎臓病の発症により、腎臓にストレスが加わると求心性腎神経が亢進し、脳からの交感神経出力が賦活し、全身の交感神経が過度に活性化することで、高血圧の発症や進行、心血管疾患の発症を引き起こします。ヒトにおいても、日本の高血圧症患者は4300万人と推定され、動物種に関わらず血圧の管理は急務であります。既に多くの薬剤が血圧調節のために開発されている中、水素を含有する透析液を慢性腎不全患者の維持透析に用いたところ、透析後の血圧が低下し、心脳血管病の発症および死亡率が抑制されたことが実証されました。これまで、水素分子は各種疾患モデル動物において抗酸化作用や抗炎症作用による治療効果が実証されてきました。また、酸化ストレスが脳からの交感神経出力を増強させ、全身の交感神経が活性化することが明らかとなっています。著者らは、水素ガス吸入によって脳へ水素を届け、脳からの交感神経出力を抑制することで高血圧症モデルラットの血圧を下げることができるのではないかと考え研究を行いました。
 実験的腎性高血圧症ラット(注1)に水素含有混合ガス(水素1.3% + 酸素21% + 窒素77.7%)あるいは水素非含有混合ガス(酸素21% + 窒素79%)を毎日1時間吸入させたところ、4週間後には水素含有混合ガスを吸入したラット(水素群)は水素非含有混合ガスを吸入したラット(対照群)と比較して、血圧が有意に低下しました(図1 A)。また、心拍数も低下傾向を示しました(図1 B)。自律神経活性の評価を行ったところ、腎不全に起因する交感神経活性の上昇と副交感神経活性の低下が、水素ガス吸入によって改善されることが明らかとなりました(図1 C、D)。
 本成果より、水素ガス吸入による降圧効果は、水素が脳へ運ばれ、交感神経の過度な活性化を抑制するという機序に基づくことが示唆されました。水素ガス吸入は、ヒトと動物どちらの医療においても、高血圧はもとより、脳卒中や循環器病の予防や治療の一助になる可能性が期待されます。
 本研究は、日本獣医生命科学大学獣医保健看護学科と慶應義塾大学医学部との共同研究により行われました。

▲図1 水素ガス吸入の血行動態と自律神経活性に対する効果
水素群(N=5)および対照群(N=6)の各個体のデータを統計学的に解析しました。
Mixed effect model; * P < 0.05。Paired T-test; † P < 0.05。

  • (A)平均動脈圧:水素群の血圧は対照群と比較し有意に低下しました。
  • (B)心拍数:水素群の心拍数は対照群と比較し低下傾向を示しました。
  • (C)交感神経活性変化量:腎性高血圧発症前からガス吸入4週間後までの交感神経活性の変化量を両群で比較したところ、対照群では交感神経活性が有意に上昇しましたが、水素群では大きな変動は認められませんでした。
  • (D)副交感神経活性変化量:腎性高血圧発症前からガス吸入4週間後までの副交感神経活性の変化量を両群で比較したところ、対照群では副交感神経活性が有意に低下しましたが、水素群では大きな変動は認められませんでした。

(注1)実験的腎性高血圧症ラット:マイクロサージェリー技術を駆使し、右側の腎臓を全摘出後、左側の腎組織の2/3を梗塞させて作製した腎性高血圧症ラットです。一期的に両側の腎臓を処置することで、外科侵襲を減らし、個体間の誤差を最小限に抑えることができます。

■研究者情報

・袴田陽二(獣医学部獣医保健看護学科 獣医保健看護学基礎部門・教授)

・藤澤正彦(獣医学部獣医保健看護学科 獣医保健看護学基礎部門・講師)