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【新着論文】トロウイルス分子生物学研究の最前線

論 文 名:
Recent Progress in Torovirus Molecular Biology.
和訳)トロウイルス分子生物学の最近の進歩
著  者:
氏家誠1)2) 田口文広2)
1)日本獣医生命科学大学生命科学総合研究センター
2)日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科 獣医感染症学研究室
掲載雑誌:
Viruses. 2021 Mar; 13(3): 435.
MDPI.
doi: 10.3390/v13030435.
研究内容:
 トロウイルス(ToV)は、現在トバニウイルス科に分類されていますが、以前はコロナウイルス(CoV)科に属していました。このため、両ウイルス科は見た目も性質も非常によく似ています。CoVは現在流行中の新型コロナウイルスやMERSコロナウイルス、豚流行性下痢ウイルスや猫伝染性腹膜炎の原因ウイルスなど、ヒトや動物に重篤な症状を引き起こすウイルスを多く含みます。一方、ToVは牛・豚・馬・ヒトで検出されており主に下痢症状を引き起こしますが、症状が比較的マイルドであるため、これまであまり注目されてきませんでした。しかしながら、近年の疫学調査により、牛ToVや豚ToVが世界中に蔓延していることが分かり、特に牛ToVの流行は畜産業界にダメージを与えています。さらに、ToVの間では頻繁に遺伝子組み換えが起こっており、予期しない新しい宿主への感染も懸念されています。これらのことから、近年では、ToVは重要な病原体と見なされるようになり、その研究の必要性が高まってきました。この論文では、ToVとCoVの類似点と相違点に焦点を当てながら、ToV分子生物学研究の最前線について概説しています。特に、著者らが近年開発したToVの人工ウイルス合成法のような最先端の技術についても言及し、これらの技術を応用したToV研究やToVの予防につながる将来の研究についても提案しています。

トロウイルスとコロナウイルスは以前は同じウイルス科に属しており、いわば兄弟の様なウイルスですが、コロナウイルスに比べて、トロウイルスの研究はあまり進んでいません。本論文は、近年に得られたトロウイルスに関する最先端の研究成果をまとめたレビュー論文です。

■研究者情報

氏家誠(獣医学部獣医学科 獣医感染症学研究室・准教授)

■関連ページ

大学報「Hello, we are NVLU」第74号特集「ニチジュウから見るコロナウイルス 世界初!牛トロウイルスを作る」(P8,9)