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【新着論文】『イヌの乳腺癌の進行に細胞骨格蛋白Nestinが関与する』

論 文 名:
Involvement of Nestin in the Progression of Canine Mammary Carcinoma
和訳)イヌの乳腺癌におけるNestinの発現と癌進行への関与
著  者:
吉村久志1, 2、守屋麻衣子1、吉田彩花1、山本昌美1、町田雪乃3、落合和彦2, 4、道下正貴2, 3、中川貴之5、松田陽子6、高橋公正3、神谷新司7、石渡俊行8
(1日本獣医生命科学大学、獣医保健看護学科、応用部門 病態病理学研究分野、2日本獣医生命科学大学、生命科学総合研究センター研究部門、がん制御分野、3日本獣医生命科学大学、獣医学科、獣医病理学研究室、4日本獣医生命科学大学、獣医学科、獣医衛生学研究室、5東京大学、獣医外科学研究室、6香川大学医学部、病理病態・生態防御医学講座、腫瘍病理学、7日本獣医生命科学大学、獣医保健看護学科、応用部門 高次機能学研究分野、8東京都健康長寿医療センター研究所、老年病理学研究チーム)
掲載雑誌:
Veterinary Pathology, SAGE journals, 58(5):994-1003, 2021
DOI: 10.1177/03009858211018656

▲Nestinが発現するイヌの乳腺癌
(免疫染色によりnestin蛋白の発現部位が茶色で示されている)

研究内容:
NestinはVI型中間径フィラメントに分類される細胞骨格蛋白で、神経幹細胞のマーカーとして発見されました。私達の研究グループではnestinがヒトの膵癌などでも発現し、癌の進展に重要な役割を果たしており、分子標的治療のターゲット候補分子になる可能性について報告してきました。今回の研究では、ヒトの乳癌のモデルとされるイヌの乳腺腫瘍におけるnestinの発現と悪性挙動への関与について検討しました。まずmRNAの発現を組織上で検出するin situ hybridization法や、蛋白の局在を抗原抗体反応を利用して検出する免疫染色法を用いて、100検体以上のイヌの乳腺病変におけるnestinの発現と腫瘍悪性度との関係を調べました。その結果、正常乳腺や良性の乳腺増殖性病変の腺上皮細胞はnestinを発現しないのにもかかわらず、3割程度の悪性乳腺腫瘍、特に転移や増殖活性が高いなどの高悪性度の性質を持つ乳腺癌の腺上皮細胞にはnestinが発現することがわかりました。また悪性度の高い乳腺癌では間葉系細胞が持つ細胞骨格蛋白であるvimentinを発現するようになるなど上皮間葉転換と呼ばれる現象が起こることが知られていますが、イヌの乳腺癌におけるnestinとvimentinの発現には相関性が認められました。またイヌの乳腺癌培養細胞におけるnestinの発現を、RNA干渉技術によりノックダウンする実験を行いました。その結果、nestinの発現が低下した癌細胞は、増殖能や移動能などが低下することが判明しました。このようにnestinがイヌの乳腺癌の悪性挙動の一部に関与している可能性が示唆されました。私達は今後も、nestinがイヌの乳腺癌の分子標的治療のターゲット分子になる可能性について検討を進めていきます。

■研究者情報

吉村 久志(獣医保健看護学科 応用部門 病態病理学研究分野・講師)
山本 昌美(獣医保健看護学科 応用部門 病態病理学研究分野・准教授)
町田 雪乃(獣医学科 獣医病理学研究室・講師)
落合 和彦(獣医学科 獣医衛生学研究室・准教授)
道下 正貴(獣医学科 獣医病理学研究室・准教授)