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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第17号:「獣医学科4年 産業動物臨床実習」

吉村 格(准教授/牧場長補佐)

2007/12/10 更新
 獣医学科4年次の産業動物臨床実習の最中に乳牛の分娩が始まった。
 難産が予想された初産の母親であったが、河上教授の適切な指示で健康な子牛を産ませることができた。
 母親は、小一時間後に迫った子牛との今生の別れを知ってか、傷ついた自分の身体の痛みも忘れて羊水で濡れた子牛を精一杯舐め続ける。子牛は、歩くことが可能であれば母親との別れはないとものと思ってか、立ち上がろうとして必死でもがき続けている。
 学生達は固唾を飲んで、子を産むために母親が命をかけた分娩の様子とその後の切ない母子の行動を見守った。
 女子学生は我がことのように身体を強張らせ、自分の未来と役割とを皮膚感覚で垣間見ることができたようだ。
 男子学生は隣にいる女子学生を自分の母親の優しさと重ね合わせ、将来「お母さん」になる彼女らの心も身体も傷つけてはならないと誓ったに違いない。
 繁殖学というものは、新しい命の誕生を学問の緒とするのか、母親の分娩をもって結果とするのかは知らないが、心も体も生きようとする「性」の問題を取り扱う学問である以上は、対象は人生全体のはずである。
 有性生殖のために天から我々に賦与された資質と機能、誕生の前から決定していたその性差が私をこの年になっても悩み多き者としている。繁殖学の範疇は広く深く大きく神の世界に近づくと言わざる得ない。