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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第20号:頑張れ!ゆきちゃん

吉村 格(准教授/牧場長補佐)

2008/2/8 更新
 「緬羊は季節繁殖の動物で、日照時間が短くなると雌は発情を繰り返し、雄との交尾を行い、暖かい春を目指して子を産むことを進化上の戦略としてきました」とまるで緬羊の生き残りのための進化の過程を目の当たりにしたかのように学生達に説明してきたが、なんと富士アニマルファームでは凍てつく真冬にポールドーセット種2頭がたて続けに分娩した。逆算すると雄との交配時期は、季節はずれの日照時間がまだまだ長日である夏の盛りということになる。
 そのうちの一頭は母親としての務めを果たし頑張って子育てに励んでいるが、他の一頭は育児を完全に放棄してしまった。一般的にはこういう血筋は育っても社会性がなく、大人になり性成熟をしたとしても雄を受け入れず、その子孫は滅びてしまうと専門家は切り捨ててしまうのだが、無から有を生むことを理想とし無上の喜びとする我々の百姓魂はその「命」を捨ててはおかない。
 栗田職員の優れた人工哺育技術は、母親に捨てられたその子羊を3時間ごとの授乳から始まって、その後は6時間、12時間と間隔を長くしていき、今では母親が育てている子羊よりもまるまると太った元気な子羊に仕上げている。いよいよ離乳の時期を迎えているが、これからは大人の羊となるための準備が始まる。動物といえども「社会」を知り、そこに加えてもらうことをしなければ健全に生きていけないのである。
 人間の子供達と仲良く遊んで可愛いがってもらえる「ふれあい」のための羊になるのもいいが、個体発生は系統発生を繰り返すという定説の裏をかいて、「ゆきちゃん」おまえが普通のお母さんになって次の世代を育ててくれることを私は信じているよ。