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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第23号:「家畜の幸せ」のために②

吉村 格(准教授/牧場長補佐)

2008/3/20 更新
 富士アニマルファームの職員は、既に朝3時過ぎには暖かい寝床を抜け出し、家族を起こさないようにしながら仕事場に向かっているはずだ。季節に関係なく朝4時からの勤務開始である。夕方は通常7時で勤務を終了するが、家畜の体調によっては遅くなることもある。職場での職員の1日は「家畜の幸せ」のために全てが収斂される。職員と乳牛との最も大きな約束事は搾乳時間の厳守である。朝5:00と夕4:00を搾乳の開始時間と決めている。若干の不等間隔を乳牛に詫びながら我々にできる精一杯の時間の提供だ。職員とその家族にとっては辛いこの作業時間の長さこそが家畜に無理のかからない飼養管理「家畜の幸せ」の土台となる。
 昨日からの仕事の引き継ぎ事項に目を通しながら作業着に着替える。畜舎に入り家畜の健康状態を見回り、餌を与え、糞を除去し、搾乳の準備などで1時間かかる。搾乳作業は新しい機械の導入で体力的にも時間的にも随分と楽になった。その分1頭1頭の乳牛に対して優しくじっくりと世話をしてやることも可能だ。搾乳作業は32頭を約1時間かけて行う。今日の1頭あたりの平均乳量は28.5㎏である。農家レベルになった牛群を学生実習に提供できるのは大学附属牧場としては自慢である。さらに富士アニマルファームのある富士ヶ嶺地区は乳質が良いことで知られているが、大学で搾った生乳の質はその管内でもトップである。そのまま消費者の口に届けられたらと思わざる得ない。
 頑張ってくれている牛達によりよい環境を与えるために、職員は飼料給与、敷料の散布、糞尿の除去、掃除、手入れなど1日中作業に精を出す。その間ほとんど顔を上げて会話を交わすこともない。風邪や持病の腰痛など少々の体調不良があったとしても仕事を休む要件にはならない。全ては「家畜の幸せ」のために黙々と作業は進められていく。厳しい作業の積み重ねではあるが、職員の心と身体はこうやって日々鍛えられ勤勉で実直で前向きな家畜管理者として学生達の前に立つことが許される。
 我々にとって富士アニマルファームという職場は共に生身の人間と野生の血を受け継ぐ家畜とが偶然にも出会い、互いに折り合いをつけながらそれぞれの人生をどのような意義あるものにするか?と常に問おうとする場所でもある。