富士アニマルファームMENU

牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第28号:「頑張れ!ゆきちゃん」パート②

栗田 豊二(主任研究補助員)

2008/6/16 更新
 日本における緬羊産業は、昭和30年前半には百万頭近い緬羊が飼育され羊毛や羊肉もさかんに生産されていましたが、近年では2万頭を切るほどまでに激減し緬羊農家は壊滅的な状況にあります。その大きな理由として、化学繊維の発達により羊毛の需要が減ったことや、羊肉が日本人の味覚に合わないとされたことが上げられます。なかでも日本で飼育されているほとんどの緬羊は季節繁殖のメカニズムに従って生産されるため、生後1年未満で出荷される臭みのない美味しいラム肉は食べられる時期が限定され、需要と供給のバランスがうまくとれなかったことが大きな課題となっていました。そこで我らの『ゆきちゃん』が日本の緬羊産業をこれ以上撤退させないために、大きな夢の架け橋になってくれたらと心から願っています。
 夢の一つ目は『年間を通して美味しいラム肉を供給できる品種を作り出すこと』です。実は、『ゆきちゃん』の父親は緬羊の中で最も肉質の良いことで知られるサウスダウン種、母親は日本ではとても珍しい通年繁殖が可能なポールドーセット種なのです。『ゆきちゃん』が両親から良い方の血を受け継いでいたとしたら、年間を通して美味しいラム肉の生産ができる品種(仮にサウスドーセット種)が誕生するかもしれないのです!!
 夢の二つ目は、『犬、猫に代わるエコロジーペットを目指すこと』です。昨今、地球温暖化や自然災害のために農作物の不作、あるいは経済的な投機の対象として農作物の奪い合いによる食料価格の高騰などで、世界は将に食糧危機の様相を呈しています。近い将来、日本においてもその余波は愛玩動物である犬や猫などのペットフードにも影響を及ぼすはずです。そこで人類と食料が競合しない草食動物の中で、サイズが適当で、人に良く馴れ、可愛くて、穏やかで、害を与えない緬羊が、人間と共存し飼い主に安らぎを与えてくれる伴侶動物的存在になれないだろうかと考えています!!
 写真は本邦初公開、牧場実習で訪れた学生達の前で『ゆきちゃん』が「つけ」「まて」「まわれ」「おて」の芸を披露してくれたものです。リードも鞭も怒鳴り声も必要ではありません。生後6ヶ月。今後どれほどの芸を覚えてくれるのかはわかりませんが、これからも優しく接し共に夢を見ながら歩いていこうと思っています。次回の「頑張れ!ゆきちゃん」パート③では、調教方法についてお話したいと考えています。