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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第29号:時代の変化

吉村 格(准教授/牧場長補佐)

2008/7/29 更新
 5年次獣医学科の産業動物臨床実習が終わった。かつて20年前の実習といえば、たとえ座学が不得手で赤点ばかりとっている超低空飛行の男子学生であっても十八番で、女子学生の気を引くための最大のイベントであった。女子は人数的にも2割弱と少なかったし、後ろの方で遠巻きにして「男子はやっぱりすごいわね」とばかりに実習こそ「将来の伴侶」の善し悪しを、精度を高くして品定めができる貴重な時間であった。
 その時代に某有名教授が言ったことが思い出される。教授曰く、『女子学生の数をもっと増やすべきだ。彼女らは偏差値が高い。入学してからも真面目に勉強する。男子学生に与える影響が大きい。授業もやりやすくなる。教員はもっと教えようとして授業に熱が入る。国家試験の合格率は当然高くなる。大学の質が良くなる。就職先も売り手市場になるだろう。すると受験生が増える。優秀な学生がドンドン入学してくる。しかも彼女らは獣医の臨床の仕事にはほとんど就かない。獣医師は増えても狭い獣医業界のシェア争いにはならない。動物の親子関係を知る彼女らは立派な母親になるだろう。懸命に努力して我が子を躾・教育して偏差値を高めるはずだ。すると不思議にも自分の来た道を歩ませようと再び獣医大学に入学させようとする。フィードバック機能が働いて大学経営は将来的にも安泰だ』。抜群の洞察力、先見の明、確かにそういう時代が続いた。
 しかし、このところの学生の様相は必ずしもそうではなくなってきている。かつて男子学生の独壇場であった実習時間は、5割を占めるようになった女子学生が後ろの方から前へ前へと進出し、指導する教員の前に陣取るだけでは飽きたらず、メスも,鉗子も、縫い針も、男子学生から全て奪いさった。初めての難しい手術であっても堂々としてたじろがない。男子学生は筋肉の量が必要なときだけ後ろの方から呼び出され、あごでしっかりとこき使われる。後ろの方が定位置となった男子学生は、「女子は元気だなー」と彼女らの度胸にため息をつきながら周囲に愛嬌を振りまいている。時代は変わったのである。
 今後、彼女らは自分の母親の時代と違って必ず社会進出を果たすだろう。しかもレベルの高いところで活躍するだろう。これまでの日本の男性社会の歪みを努力によって地道に変革していくことになるだろう。この真剣な眼差しと気魄がそれらを実現していく証となることを私は確信している。