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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第48号:家畜の品種を継続させる

吉村 格(准教授/副牧場長)

2010/1/28 更新
 恐らく、世界の5大乳用種といわれるホルスタイン種、ジャージ種、ガーンジー種、ブラウンスイス種、エアーシャ種を常時繋留し生産活動を続けているのは、我が国では熊本にある酪農マザーズの阿蘇ミルク牧場と我が富士アニマルファームだけである。「乳量を期待しない大学の付属牧場だからそのような毛色の違う牛が飼えるのだ」と侮ってもらっては困る。今日の生産は、それらを混み混みで32頭の1頭当たりの平均乳量は31.0kgである。当初は学生の実習のための展示用として導入し繋留したものであったが、今では、これらの5つの品種が同じ場所で、同じ飼養管理を受け、同時に実験ができるということで、重要な研究の対象にもなっている。
 2月10日に行われる動物科学科の卒業論文発表会では、動物栄養学教室の撫先生の指導を受けた田崎智子、平田美香、鎌田恵玲奈が、これらの異なる品種の搾乳牛について、ルーメンの発酵、乳成分と血液の性状、乳脂肪酸組成に及ぼす影響をそれぞれ研究発表することになっている。我々はツナギ姿で懸命に作業する彼女らしか知らないが、フォーマルな衣装に身を包み緊張で声を震わせながら発表する姿も是非見たいものだ。
 現在の乳用牛のほとんどを占めるホルスタイン種は、消費者の価格訴求に応え、人間の食糧と競合すると批判に晒されながらもトウモロコシを食べ続け、それが乳量に敏感に反映するように改良されてきたものである。しかし知恵のある関係者は、飢えの時代が来る前に草資源や食品残渣で十分に飼える乳牛の系も作出しておかなければならないと考えているに違いない。トウモロコシの相場が高騰し牛飼い仲間が借金を抱え泡沫のように消えていった去年の悪夢を忘れてはならないと思う。穀物の需給が逼迫すれば時代は間もなくホルスタインに他の乳用種の血液を取り入れたいと欲するようになるだろう。
 ここ富士アニマルファームでは、酪農の未来を切り開こうとする基礎的研究が、これから専門家となって実社会に飛び出す若い人達の手で精力的に行われている。新規の家畜を導入するたびに、それぞれの品種を途絶えさせることなく、細くとも長く継続させなければならないと飼養管理に腐心している我々にとって、その種が健康に生産活動をしている間に「しっかりと実験をやってもらえる」ということは導入家畜に存在意義を与えてやることができるとても有り難いことなのである。