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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第54号:日本の美「富士山と雪と桜」

吉村 格(准教授/副牧場長)

2010/4/20 更新
富士雪桜
 今日は4月17日。関東甲信越地域の未明の天気は強い寒気の影響を受け、都心では41年ぶりに最も遅い降雪の日に記録が並んだという。
 今年も冬から春にかけては三寒四温の通常の気象パターンを当初は繰り返していたが、3月の終わり頃から少しずつ例年のパターンは崩れ始め、4月に入ると「なにかへん」から「やっぱりへん」と感じていたのは田舎暮らしの長い我々ばかりではなかったと思う。生産の現場である富士アニマルファームでも困ったことに、草地がぬかるんでトラクターの作業はできず、日照時間が短いためか牧草の生育は悪く、花壇で元気なのは水仙だけ。寒さのために動物たちの冬毛はなかなか抜けず、カウハッチの床は水を吸って子牛達のお腹をベチョベチョに濡らしている。堆肥の発酵は進まず、水道は凍結が心配で水抜きは欠かせず、働く職員は厚手の作業着とストーブを未だに手放せないでいる。
 それでも時折感じる暖かい風と心地よい日だまりに触発され我々の心は春を求めて走り始めようとするが、今日のように自然の「なにかへん」「やっぱりへん」は強烈な形で冬の体制へと回帰させてしまう。
 今朝は自宅から眺める富士山の中腹や毛無山の山頂は白く化粧しており、タイヤを替えたことを後悔しながらの出勤であった。案の定すれ違う山梨方面から来る車の屋根には雪を乗せており、県境に近づくにつれてシャーベット状の雪にハンドルをとられながら職場までやっと辿り着いた。積雪そのものは10㎝ 程度であるが季節はずれの除雪の作業や家畜の飼養管理は我々を右往左往させるばかりで、冬の重装備を解いた弛緩した心と体はすぐに戦闘態勢には戻れなかった。
 さて、我々に毎年確かな春の到来を知らせてくれるのは富士山の裾野から上昇し続ける桜前線である。今月初めに富士宮の浅間神社境内を見事なピンク色で染め抜き、外神から白糸の滝周辺を瞬く間に通り過ぎた。先週あたりからまかいの牧場を満開とし、今週は静岡県の畜産技術研究所や朝霧ジャンボリーへと徐々に高度を上げ、寒の戻りで停滞した分だけ花は命を留め、道路端に咲く山桜と競演しながら富士アニマルファームの蕾にも早く咲けよと囁きかけている。「なにかへん」や「やっぱりへん」など異常気象で困ったこともいろいろあるが、今年もやっと巡って来た春に感謝しながら喜びをかみしめている。富士山と雪と桜、なんと素晴らしい日本の美。自然のハーモニィーの中に自分は生かされている。春の解き放された心と体でシャッターを切った。