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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第137号:産業動物臨床学研究室牧場実習

獣医学科 臨床獣医学部門 治療学分野II
産業動物臨床学研究室

2015/06/22 更新

獣医学科5年次 西條 怜央

 吉村先生に言われるがまま、目の前に佇む手入れの行き届いた美しい毛並みにおそるおそる触れ、確かめるように愛撫をし、そして—。せーのっ、という掛け声とともに左ひざを抱え上げられて馬上へとまたがり、姿勢を直した瞬間に一気に景色が広がりました。
この日はからっと晴れた晴天で、高度のある富士アニマルファームでも少し暑いくらい。空は青く、牧場の緑もよく映えて、遠くを見れば富士山が望めます。恥ずかしながら私は乗馬をする機会と縁遠く生きてきたもので、いつもよりもぐっと高い視点の馬上の景色に一瞬驚いてしまいました。
指導してくださる先生に言われるがままに手綱を握りしめ。鐙へ足をしっかりつけて、腰の下の鞍の感触を確かめます。さあ、出発です。姿勢を正し、脚に少し力を入れて合図を送れば、馬はゆっくりと、それでいてしっかりと私を乗せて進み出します。毛並みも立派ですが、頭もとてもよい馬です。不慣れどころかほとんど初めての私を乗せても落ち着いたもので、ぱからっぱからっと小気味よい蹄の音をリズミカルに響かせ、軽快に進んでいきます。それでいて私が手綱を右へ開けばゆるやかに右へ、左へ開けば左へ、少し引いてあげればぴたりと止まってくれます。
天気が良くて幸運でした。馬上の揺れも高い景色も新鮮で、もう慣れたと思っていた牧場の風もいつもより心地よく感じます。脚に少し力を入れて伝えれば、それまでよりも少し早く歩いてくれます。鞍から伝わる振動が思ったよりも大きくて、初めは少し驚きました。
 私たちの研究室には、乗馬の経験がある方が数名所属していますが、馬上の姿はやはり一目見ただけで初めての人との違いが分かります。姿勢はまっすぐに伸びて安定し、駆け足で牧場を駆ける姿は本当に気持ちがよさそうでした。いつか私もあんな風に草原をかけてみたいものです。
馬術は古くから時代や老若男女を問わず人気があり、現在、日本の乗馬人口は7万人強。ドイツの250万人、イギリスの400万人に比べればマイナーな感は否めませんがここ20年で倍増していて、カジュアルなクラブであればほかのスポーツとさほど変わらない出費で済むとあって、若い女性の参加が増えてきているそうです。
今回私たちは牧場実習用のつなぎに長靴、という格好で乗ってしまいましたが、貴族社会のたしなみとして発展した馬術は騎乗の正確さ、美しさに加え、礼儀・作法も重んじるのだそうで、本来は黒または濃紺の燕尾服、トップハット、ストックタイ(または白いネクタイ)、白あるいはオフホワイトのキュロット、グローブ、乗馬ブーツが正装なのだとか。普段の乗馬はそんなことはありませんが、競技会ともなると正装で身を固めた選手がずらりと並ぶそうです。
馬と人との歴史は非常に古く、ヨーロッパでは紀元前4000年には家畜化の痕跡が認められるなど、その付き合いは実に長いと言えます。馬が乗馬用に使われ始めた最も古い証拠はウクライナで紀元前4,000年頃の乗馬に使われた馬の骨が見つかっています。乗馬は、人や物の運搬、移動手段として、人類の歴史における画期的な技術革新をもたらし、世界の歴史を左右してきました。その重要度は航空機の発明以上の意味を持つと言われます。
日本にいつ馬が入ってきたかについてははっきりしていませんが、魏志倭人伝(3世紀前半の日本の様子を記載)には日本には馬がいないと書かれており、発掘された最も古い馬の骨が5世紀中ごろですから、大体その頃だと推測されています。ヤマトタケルの東征など神代の物語にもその記述は見られますが、馬は弥生時代末期に大陸から渡来したというのが定説です。江戸時代まで馬の飼育は武士や貴族にのみ限られて許されていましたが、1871(明治4)年には平民に許可され、戦後モータリゼーションが整備されるまでは農耕、荷役、鉄道牽引などでも活躍しました。 現在ではスポーツとして、あるいは文化として世界中で親しまれ、人馬一体の言葉を体現する乗馬。これからも動物と人とをつなぐ形のひとつとして発展して欲しいと思います。

獣医学科5年次 福本 拓実

 私は乗馬するのは二度目で、一度目は大学1年のアニマルファーム実習でした。久しぶりだったので、その時の感覚はあまり覚えていませんでした。
馬を見てやはり最初に思うことは、大きい、高い、でした。今までに牛を相手にしたことはあり、牛は巨体ではありますが目線の高さは人よりも低くなっています。馬は遠目に見ることがほとんどだったので近くで見ると頭の高さに驚きます。
牧場長の吉村先生のお話のあといよいよ乗馬となりました。元馬術部の後輩に手伝ってもらいながらようやくまたがることができました。想像よりも高い目線に驚きつつ、手綱を持ち馬を歩かせました。カッポカッポと小気味よい音を立てて歩いてくれましたが、乗っている私は戦々恐々で、まず難しいと思ったのは馬を進ませたい方向に歩かせることでした。なかなか曲がってくれなかったり、逆にすごい角度で曲がってしまったりと、さじ加減がとても微妙でした。そのまま建物の周りを2周し、なんとか扱いに慣れてくるとスムーズに移動することができ少し余裕ができました。3周目の最後のわずかな直線は馬の腹部をかかとで少し強めに圧迫して速足にさせ、元の地点にもどりました。これは予想以上に速く、また上下の揺れも強かったので落馬してしまわないかと焦りましたが、無事に止まることができたので安心しました。
馬は二頭いたため、別の一頭にも乗らせていただきました。一頭目はわりと軽快に進みましたが二頭目はやや気ままな感じでした。この時点で20分ほど私たち研究室員をのせていたため飽きがきていたのかもしれませんが、性格の差であれ時間によるものであれ、馬によりここまで差があるのかというくらい乗り心地が違うことに気づきました。
その後、やや広く草の生えている場所へ移動しました。ここでは時間の都合により私は乗ることができませんでしたが、元馬術部の後輩の乗馬姿がとても様になっているなぁと思っていると、吉村先生が鞭を持ってきてくださいました。もちろん触るのは初めてで、思ったよりも固くしっかりとした素材でできていることがわかりとても興味深いものでした。
今回私が乗馬した時間はとても短いものでしたが、貴重な体験をさせていただいたことを大変ありがたく思っています。また乗らせていただけるとのことでしたので、その際は今回よりもう少し上手に乗り、またもう少し馬とコミュニケーションをとってみようかと思っています。

獣医学科4年次 中山 志津佳

大学の授業は忙しい毎日ですが、富士アニマルファームに行き大きな動物達と触れ合えると、普段の眠気も疲れも忘れてはしゃいでしまいます。富士アニマルファームでは、武蔵境キャンパスで飼育できない大動物達に会える貴重な体験ができます。
私達産業動物臨床研究室は主に1ヶ月に一度アニマルファームに行き、毎日動物達のお世話をして下さっている方々の元で実習をさせて頂いています。今回は吉村先生に乗馬訓練を行って頂きました。私は乗馬経験があったのでまずはお手伝い。
研究室のメンバーの中には今回初めて馬に触る人もいましたが、吉村先生の特訓の元すぐに皆速足を出せるまでになりました。馬の背中に乗ると普段より高い視点になり、馬のゆらゆらとゆっくり揺れる並足のリズムに合わせていると、涼しい富士高原の空気の中では少し眠たくもなってしまいます。(今回皆はまだその余裕はなかったようですが笑)馬と一体になれる瞬間をもっと色々な人に体験して欲しいなぁと思っていたので、今回この様な機会を作って頂けてとても嬉しかったです。
ご指導頂いた吉村牧場長、山田先生、長田先生、いつも動物達が健康なように管理していて下さるアニマルファーム職員の方々、そしてアニマルファームの動物達、今回も貴重な体験をさせて頂きありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願い致します。

獣医学科4年次 寺田 博美

 清らな富士の空の下、青葉の美しい季節に、産業動物臨床学研究室の今年度一回目となるアニマルファーム実習が行われました。
アニマルファームに着くと最初に目に飛び込んでくるのが、木陰で涼む羊の群れです。それからさらに奥へと進み、牛舎から顔をのぞかせている牛たちが見えると、私は勉学への気概が沸いてくると同時に、どこか安らぎや懐かしさ、ときめきさえ覚えます。牛舎を抜けたところには草地が広がり、たてがみを薫風にゆだねて悠々と歩く馬の姿には、いつも心が高まります。東京キャンパスでは接する機会の少ない牛、馬、羊、山羊、豚、鶏などの産業動物に接することのできる自然豊かな富士アニマルファームでの実習は、われわれ学生にとって、とても貴重で、得がたい経験ができる場です。
今回の実習では、まず午前中に、牛との接し方などについて学び、午後からは、吉村先生による馬学と乗馬訓練を受けさせていただきました。馬学においては、自分の学問の至らなさをひしひしと痛感しました。例えば骨の構造や神経の走行、筋肉の名称と位置など、習ったはずなのに答えが出てこない場面が多く、日ごろから繰り返し復習し、さらにそこから学問を広げていくことがどれほど大切であるかを思いしらされました。
その後の乗馬訓練は、ただただ楽しいものでした。私にとって3年ぶりとなる念願の乗馬だったので、馬上から見える景色、手綱の感触、すべてが新鮮に感じられました。馬は、もちろん牛もですが、人間ではとてもかなわないほど大きく、強い力をもった動物です。彼らの何気ない身振りで簡単に投げ飛ばされてしまうこともあります。どのようにすればお互いに危害なく作業できるのか、つねに考えながら接しなければなりません。しかし、そのようにある一定の線引きはしつつも、やはり彼らの愛らしさや親しみやすさに目を向けずにはいられません。くりくりとした瞳にふさふさのたてがみなど、つい手を伸ばしたくなるような魅力的な外見はもちろん、うまくコミュニケーションがとれたときの喜びは言葉では言い表せませんし、人をよく見ている賢い生き物だと接するたびに感じます。今回の実習で、大動物に接する際の難しさだけでなく、楽しさを改めて実感することができました。
今年度の研究室の実習はまだ始まったばかりですが、より真剣に誠実に彼らと向き合い、目標を持って実習や勉学に励んでいきたいと思います。

獣医学科4年次 小林夕香利

 「あれは寝てるね」 吉村牧場長が人を乗せてぽてりぽてりと歩く馬の姿を見ながら呟いた。
馬は乗る人のことを瞬時に理解し反応する。引綱で引いてもらっての乗馬体験とは異なる、一人で手綱を握る乗馬訓練。濃密な1対1の時間。がっちがちの私の下で、馬も半信半疑で歩みを進める。普段から馬に乗り慣れている人に手綱を任せている時の馬は実に颯爽と、自信に満ち満ちた顔をしているのに、慣れない乗り手の下で怪訝な顔をするのも当然だ。
人と馬との信頼関係はそのまま獣医師と農家さんの信頼関係に置き換えることができるのかもしれない。農家さんはその道のプロだ。初めて派遣された獣医師に診療を依頼した時、その時にとった行動が信頼にも不信にもつながる。
また、この乗馬実習では吉村牧場長による馬の講義が行われた。馬に関する質問が解剖学や生理学などあらゆる角度から矢継ぎ早に浴びせられたが、それに素早く的確に返答することができなかったことは深く反省すべき点である。獣医師は学んだ知識を総動員させて動物や農家さんと対話しなければならない。確固たる知識を携えることで自信と信頼を獲得することができるはずである。今後の実習では牧場の先生方の期待を裏切らないように、漫然とした態度ではなく万全の準備のもと、一つ一つの実習に臨む必要があると強く感じた。

獣医学科3年次 椚 有香


 私は今回初めて富士アニマルファームに行きました。今まで、他の機会も含めて牧場実習に行ったことはなかったので、牛を間近で見るのも触るのも今回が初めてでした。また、この産業動物臨床学研究室に入っての活動もこれが初めてだったので、何もかも全てが初めての経験でした。
牛舎に入ってたくさんの牛を見てまず思ったのは、「でかい」。今まで馬には接してきていたので大動物に全く触れたことがないわけではなかったのに、初めて牛を目の前にして、その大きさに少々驚いてしまいました。とはいえ、もともと大動物は大好きなのですぐにサイズには慣れ、実習に取り組むことができました。
午前中は、先生に見本を見せていただきながら、牛との接し方などについて学びました。初めは緊張しながらの作業になりましたが、先生方は優しく教えてくださり、できたことは褒めてくださって、徐々に緊張も解けていきました。大動物はとても大きな力を持っていますので、暴れている牛に近づくのは危険を伴います。今回の実習では、まずは自分の身を守ることが自分にとっても動物にとっても大切であるということを学びました。
午後は乗馬をさせていただきました。馬に乗るのは久しぶりで、馬の上からの景色は最高でした。自分の意思を馬に上手に伝えるのは難しく、なかなか人馬一体とはいきませんが、短い時間でしたが乗馬を存分に楽しむことができました。
今回は日帰りだったので、牧場で実習ができたのは大変短い時間でした。しかし短時間な中でとても有意義な時間をすごすことができました。先生や先輩に教えていただきながらたくさんのことを学べたと思います。産業動物の獣医師を目指す私にとって、東京のキャンパスでは会えない大動物に触れる実習の機会はとても大切です。まだ研究室に入ったばかりで、これから卒業までまだまだたくさんこのアニマルファームに来ることになると思います。1回1回を大切に、先生方や先輩にたくさん教えていただきながら、少しずつでも成長していけるよう、これからも頑張っていきたいと思います。