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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第138号:ただいま修行中

動物科学科 動物生殖学教室3年次 辻田泰貴

2015/06/29 更新
私は5月のゴールデンウィークの休暇に合わせて、富士アニマルファームに牛の受精卵採取に行きました。ガーンジーから雌産子を獲得することが今回課せられた任務であり、3月のリベンジマッチになります。
ザックザックと潮干狩りのアサリように受精卵が採取されることにも対応できるよう、4年の研究室担当者が採卵準備の他、余剰の受精卵を凍結保存する準備、雌の受精卵だけを判別する準備、生存性が低下した受精卵を賦活化する培養の準備を分担し、必要機材を公用車ハイエースに山積します。夕方からハイテクリサーチセンターに向かい、翌朝の採卵のための準備を整えました。残雪の富士の麓、5月の夜はまだまだ肌寒く、東京では見られない美しい夜空を眺めるに留め、翌日に備えました。
早朝の牧心セミナーハウスは見事な快晴で、普段よりも近く富士山を感じました。ホルモン処置と人工授精を担当された水谷先生が固唾を飲んで見守る中、乾乳牛舎から臨床検査室に供卵牛が運ばれ、枠場に保定されます。除糞・外陰部の洗浄の後に尾椎麻酔が施され、採卵が始まりました。発情後7日目の子宮頸管は固く閉じているので、拡張棒を通過させてからカテーテルを子宮角に挿入します。術者は先端のバルーンを空気で膨らませることでカテーテルを子宮角に固定します。チューブと注射筒を接続して還流液を子宮角に注ぎ込んでから、子宮角先端を軽く持ち上げることにより、サイフォンの原理で還流液とともに受精卵をシリンダー内に受け取ります。
両子宮角を洗浄した後の作業は、学生に委ねられます。先生方が牛舎にドナーを戻し、受精卵を移植する牛を選定している間にこれらの任務を終了しなければ、中央道の帰路が交通大渋滞に巻き込まれてしまいます。時間との戦いの中、正確な技術と判断が求められます。先輩達の顔に緊張が走ります。シリンダーに溜められた還流液を卵回収器で濾し、プラスチックシャーレに移し、実体顕微鏡を用いて子宮頸管粘液を掻き分けながら受精卵を捜索します。回収した受精卵が移植できるか、凍結できるかを決定するとともに、その判断に基づく適正な処置を施します。
前回は9個の受精卵を採取できたのですが、すべてが子宮で退行した受精卵でした。今回は辛うじて1個が正常卵であったので、1頭に移植することができましたが、満足できる結果には至りませんでした。受精卵移植の受胎率は5割なので雌1頭を得るには少なくとも4個の受精卵が移植されなければなりません。夏の人工授精講習会に3度目の採卵が行われ、後継牛が残せるまでガーンジーの採卵は続きます。このほかにも不定期に東京近郊の牧場に赴くことがあり、この次は6月に85点の体格得点を持つブラウンスイスの採卵が計画されています。「ザックザックの受精卵」を円滑に処理にできるよう、先輩達の技術を引き継いでいこうと思います。