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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第144号:2015年度 産業動物臨床学研究室牧場実習2

獣医学科 臨床獣医学部門 治療学分野II
産業動物臨床学研究室

2015/08/27 更新

獣医学科 4年次 小川 彩香

私が所属している産業動物臨床学研究室は、月に1回ほど富士アニマルファームで実習をさせて頂いています。東京のキャンパスでは味わうことの出来ない自然や、大動物と接することが出来るこの機会は、私にとって毎回有意義な時間になっています。
普段は、牛をメインに実習を行っていますが、今回は吉村先生の指導の下、乗馬訓練をさせて頂くことが出来ました。
まず乗馬してみて感じたことは、馬は人間をよく見ているなということです。私や他の初心者の人たちが乗馬している時の馬は、心ここにあらず、といった感じでぼーっとし、頭も下がりぎみでした。しかし、馬術部などの乗馬経験者が乗ると、こうも変わるのかという位シャキッとし、馬自身も気持ちよさそうに走っていたのがとても印象に残っています。また、人を見ているというのは馬だけではなく犬など他の動物にも当てはまると、日々の大学での実習を通して改めて感じています。乗馬時間は短かったですが、なによりも楽しく、もっと馬とコミュニケーションがとれるようになりたい、もっと馬について知りたいと思いました。
アニマルファームに行き、実際に動物達と触れ合うことは将来自分の目指す獣医師像を考える上で大変役立っており、やる気にも繋がっています。こうした大動物と接する機会を設けて頂けることに感謝しながら、これからも実習、勉学と励んでいきたいと思います。

獣医学科 4年次 上原 メイ

馬は大きく、力もある。と言えば、多くの人に同意を得られることと思います。しかし同時に、馬がとても臆病で、デリケートな動物である、という認識もまた、広く共有されているようです。かくいう私も、馬については、前述のようなイメージを抱いていました。先日の実習で乗馬をした際、実際に触り、乗ってみて、人間を乗せて軽やかに歩く姿を見て、やはり馬の大きさと力を感じましたし、乗馬中、私が乗っている馬が、なんてことはないブルーシートや、干してあるタオルがはためくのを怖がるところを目の当たりにして、馬はこんなにも繊細なのだなあ、と改めて気付かされました。
考えてみれば、馬は草食動物ですから、肉食獣から逃げるための脚力は最も重要なものです。臆病であること、すなわち周囲の異常に対して敏感であることは、角やかたい皮膚をもたない馬が、今日まで絶滅せず生きのびるために、必要不可欠なものだったに違いありません。というところまでくると、こんな動物をはじめに飼いならした人は、なんてすごいのだろう……と思わずにはいられません。
馬の家畜化はどうやら中央アジアのあたりではじまったようです。もちろんその頃の馬は現在見られるサラブレッドのような品種よりも小さかったはずですが、それにしても、野生種であるモウコノウマやタルパンを見るかぎり、体重は人間よりもずっと重いし、力の強い動物であったことは間違いなさそうです。大昔の人間にとっては、馬も狩猟の対象であり、馬にとってはいわば天敵の一種であったわけですから、人間を警戒していなかった、ということもないでしょう。おそらく、狩猟のついでに捕まえてきた馬を飼いならしたのでしょうが、警戒心の強い、力が強く蹴り飛ばされたりすればただでは済まない、そんな動物を、荷を引かせたり、乗って操ることができるようにし、調教して芸を仕込むまでになっているのは、なんだかものすごいことのように思います。
むろんこれは馬に限らず、すべての家畜にも当てはまります。長い時間をかけて、人間とともに生きるようになった(もっとも、させられた、という見かたもあるかもしれませんが……)動物の種類は、決して多くはありません。近年ではエキゾチックアニマルも一般的になりはじめているとはいっても、犬や猫、牛や馬といった家畜と比べると、上手く言えませんが、種全体として人間との距離感が違うように感じます。家畜は人間の改良、あるいはおのずと、その形態を変え、気質を変化させています。そして人間もまた、家畜のための器具や手法を開発し、また文化的な面でも、絵画や文学のなかで、他の動物とは一線を画する扱いをしています。
ところで、祖母が子供の頃は、農家には当たり前のように大動物がいて、触れ合う機会も多かったそうですが、現代の私達は違います。犬が散歩したり、野良猫が集まっていたりするように、馬が散歩しているとか、野良牛が道端に集まっているなんてことは、日本ではまずありません。そもそも直接目にするのが、ごく限られた場所(観光牧場、競馬場など)をのぞいてほとんどないといっていいくらいです。スーパーでパックづめにされた肉、というかたちでしか牛を知らない子供や、ともすれば大人も、増えていくかもしれません。そこまで極端ではないにしろ、牛や馬などの大動物は、身近な生き物ではなくなってきています。しかしながら、牛や馬は家畜です。家畜は、種としての長い歴史を、ある時点から人間とともに歩むようになった動物です。たとえ多くの人にとって身近な存在ではなくなってしまったとしても、やはり人間とは切っても切れない縁で結ばれている動物なのだと思います。そんな家畜たちと過ごす時間があることは、私にとって、とても幸せなことです。この貴重な機会を無駄にしないよう、これからの牧場実習でも、沢山のことを学んでいきたいと思います。

獣医学科 5年次 中川 智仁

今回の乗馬では馬に乗る前に先生方に、実際の馬を目の前にして、馬の解剖学的特徴をレクチャーしていただき、今までは実際に馬を見て学べる機会が少なかったのでとてもよい勉強になりました。 馬に乗ってみると、鞍の上は不安定で、手綱を持ってバランスをとるだけでも難しく、馬に進めや止まれの指示を出すだけでも思った通りになりませんでした。 今回は二頭の馬にそれぞれ一回ずつ乗ることができたのですが、どちらの馬もおとなしく、歩くルートも覚えているようで、自分が馬を操作しているというよりも、馬が自ら進んでいるという感じでした。 今回は馬術部の方がいたので、その方々に手伝っていただいて、駆け足や、左右への方向転換などの練習ができて乗馬の楽しさが少しわかった気がします。 しかし、まだ馬に乗る楽しさよりも怖い気持ちのほうが大きいので、今後乗馬する機会があれば徐々に克服していき、自在に馬を操れるようになりたいと思いました。

獣医学科 6年次 笠原 万起子

本学は武蔵境駅から数分の住宅地にあり、周辺には大型スーパーなどもあります。そんな場所柄もあり、東京のキャンパスでは小動物中心の実習しかできず、産業動物を扱う実習は山梨県の富士山麓にある付属牧場(富士アニマルファーム)で行っています。残念ながら、私たち獣医学科の学生が学生生活の中で産業動物と触れ合える機会は、このアニマルファームで行われる実習を含め非常に限られた期間でしかないのが現状です。宮城の田舎生まれ、田舎育ちの私は「もっと普段から、牛に触りたい…」と、普段の学生生活に物足りなさを感じつつ、諦めかけていた時の事です。当時4年次だった私は、同期の友人から数か月後に産業動物臨床学研究室ができ、長年産業動物臨床の現場で活躍されてきた山田先生が特任教授として就任されるとの話を聞きました。数か月後には研究室ができるということだったのですが、待ちきれなかった私たちは、当時の4・5年次の学生が中心となって「牛クラブ」を立ち上げました。「牛クラブ」では、下は1年次から上は5年次までの学生が、日帰りで富士アニマルファームに出向き、山田先生ご指導のもと、牛のハンドリング、臨床観察、採血や注射、直腸検査などの産業動物臨床の基礎を習得するための活動を行なっています。
私も「牛クラブ」に何回も参加しましたが、「もっと牛に触りたい」という安易な考えと興味本位で参加した私には、決して全てが楽しかった訳ではありません。最初は、実際に成牛を目の前にして、どこに立っていいかも分からず、正直なところ「蹴飛ばされたらどうしよう、怖い」という気持ちが強かったです。また、想像していたよりも牛の扱いは難しく、体重が400kg~500kgもあるため、体力的にも精神的にも本当にヘトヘトになっていたのを鮮明に覚えています。先生からも「危なっかしい、へっぴり腰、力が無さすぎる」と、笑われてしまうほどでした。普通、先生からこのような事を言われたら、自分には向いていないのかも…と思ってしまうところなんでしょうが、私はそんな気持ちには全くならず、富士アニマルファームに行けば行くほど、「基礎的な技術をきちんと定着させたい、もっと学びたい、牛を目の前にして学べるなんて楽しい!」と心から思えるようになっていきました。そして数か月後に産業動物臨床学研究室が発足し、山田先生のもとでさらに深く学んでいくことができるようになりました。
早いもので、牛クラブが発足して2年、産業動物臨床学研究室が発足して1年と数ヶ月が経とうとしています。私たち室員は、普段は授業がありますので、頻繁に富士アニマルファームに行くことは出来ませんが、休日の限られた時間の中で、吉村牧場長をはじめとするスタッフ皆様のお力添えをいただきながら活動を続けています。当初は「危なっかしい、へっぴり腰、力が無さ過ぎる」と言われていた私ですが、活動していくうちに、「牛」という動物の生態や行動を目で見て理解し、自然に対応ることができるようになりました。背が小さい・力が強くないなど多少のハンデがあったとしても、まずは「やる気」さえあれば、大概のことがクリア出来ると思います。この記事を読んでくれた学生さん、特に女子学生さんたちが「夢」を諦めることなく、産業動物獣医師としての道を選択してもらえたら幸いです。
私の大学生活も残すところ、あとわずか半年となってしまいました。牛クラブ、産業動物臨床学研究室の発足は、アニマルファームの存在なしには始まらなかったですし、そして何よりもいつも優しく迎えてくださる吉村牧場長をはじめとするスタッフの皆様、牧場担当獣医師の水谷先生、そして研究室の山田先生との出会いは、私の6年間の大学生活において、最高の糧となりました。この場を借りて、深謝致します。本当にありがとうございました。