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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第154号:仕事を教えられた人生の先輩

吉村 格 (教授/牧場長)

2016/01/27 更新
 富士アニマルファームでは、育成期の乳牛を北海道の牧場へ預託することにより、省力化・効率化を図ってきた。北海道の広大な土地と良質で豊富な草資源により、足腰を鍛えられ最大の武器である第一胃を機能的な臓器へと成長させた乳牛は、預託後2年余りで分娩とその後の搾乳に耐えうる機能的な身体になって、富士アニマルファームに戻り、その後はひたすら本学の経営のために尽くしてくれる。我々にも仔牛をどのように育てたらこのような能力を発揮してくれるかという知識はある。しかしながら我々のもてる環境では、このような乳牛に育てあげることはできないのが現状である。
 さて、話しは馬に変わるが、昨年JRA馬事公苑から寄贈を受けたゴールゲッター号は素晴らしい馬である。初心者の学生を瞬く間に馬好きにしてくれる。もしこのような資質馬が育成段階から富士アニマルファームに搬入されたとしても我々の飼養管理や調教技術ではこの域まで到達することはできなかっただろう。馬事公苑という馬術の殿堂で達人たちが目に叶った馬を日々の厳しい訓練で仕上げた成果を我々は享受しているのである。学生時代を情熱をもって馬術部の厩舎で過ごし、南米ではカウボーイの真似事をし、帰国後は競走馬の繁殖・育成に携わった私であるが、私ごときの技量ではこのような立派な馬に仕上げることは到底できない。
 今どきの大学生の学力や勉学態度について、「ゆとり教育」の弊害と嘆く大学教員もいるようだが、どういう教育を受けた世代にせよ昔からできる学生はいたし、できない学生も同じ割合で存在していた。敢えて違いを言えば、昔は出来の良い学生が中心にいて出来の悪い学生は中心に居座ることは出来なかったということであろう。幸い本学には、両親からの愛情タップリに育てられた優秀な学生が多く、自分のことで精一杯で自分の子供にさえ十分に接することが出来なかった私に、これらの優秀な学生たちを指導していくことは至難のわざである。
 有り難いことに「機能的な牛」「立派な馬」「優秀な学生」がいる付属牧場になった。まがりなりにもこれまで運営してこれたのは、仕事というものを私に教えてくれた元職員の佐藤貞夫さんのお陰である。体力ばかりで出来る仕事は限られていた私に、正しいかどうかではなく社会とどこで折り合うのか、明日出来る仕事は何なのか。自分の意見を理解してもらうためにはどうしたらいいのか。かっての若い私は上手に教えてもらいそれを理解した。自分に出来ないことはコミュニケーションを豊かにし、本学教職員や牧場職員の助けを借り、さらには外部の組織に協力を求め、ある程度の仕事は出来るようになった。過日、育ててもらったお礼を言いたくて富士アニマルファームにお誘いした。「牧場らしくなったね。」「頑張ったね。」と言って頂いたのは本当に嬉しかった。