富士山は雪化粧、白い息を吐きながら草を食む牛たち、牧場は冬の厳しさと家畜の力強さが際立つ季節になりました。
私が所属する動物生殖学教室では、国内の高品質な食品生産の安定供給、良質な乳・肉を供給するための育種改良を実践できる付属牧場に、動物生産に有効な手段である受精卵移植技術MOET(multiple ovulation and embryo transfer)を提供しています(動物実験承認番号29K-1)。
富士アニマルファーム、富士山デーリィクリニックの協力の下、今年最初のMOETが後期テスト終了を待って行なわれました。気温マイナス10℃、寒さが全身に沁みる中で準備をはじめ、臨床検査室に牛が繋がれると、やっと白ばみはじめて薄ら暖かくなりました。採卵は獣医師の三浦先生が担当し、私たちは採卵補助、灌流液からの受精卵の捜索と品質評価、そして受精卵の凍結保存と受卵牛への移植作業を担いました。乳牛から確実に正常な受精卵を採取することは難しく、排卵数が少ないため止む無く中止になりました。黒毛和種はこの産歴で4回目の処置になるため、反応が低下するのでは?と心配されましたが、写真のように16個の受精卵を採取しました。左から6個は変性卵として廃棄、右から4つの高品質受精卵は緩慢凍結保存、残りの受精卵は変性部分が認められるので5番目と6番目をガラス化保存可能と判断し、残りの4個を2卵ずつ2頭の受卵牛に移植しました。移植した受精卵が胎子へと発生すれば、3週間後にはエコーに心拍が捉えられます。そして10か月後には新しい命が誕生するので、11月が楽しみです。
チーム三浦と牛島ドーターズによるコラボレート採卵は、試行錯誤の末に牧場で日常化されつつあります。チーム三浦が土曜日の繁殖検診の折に牛の選定と処理を行い、月曜日に富士山デーリィクリニックの後藤獣医師に初回のホルモン注射を依頼すれば、牧場長とスタッフの処置で金曜日に発情が発現します。土曜朝に人工授精を行えば、翌週土曜日に子宮から受精卵を採取することができます。今年1月に分娩した黒毛和種の離乳を待って、GW連休前にまとめて採卵、折を見て保存した受精卵を搾乳牛に移植することにより、1年を通して和牛生産をする予定にしています。
今後はより多くの受精卵を回収できるよう技術、知識の向上に努めてまいりたいと思います。そして、将来はMOET技術を習得して、日本の畜産業を支え盛り上げたいと思います。