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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第226号:家畜人工授精師講習会に参加して

応用生命科学部動物科学科 4年次 堀江駿介
東京農工大学生物生産学科 宮木怜磨

2020/10/15 更新

応用生命科学部動物科学科 4年次 堀江駿介

 私は来春から北海道の農協で家畜人工授精師として働く予定です。今回の講習会には技術者に必要な技能を習得するため参加しました。この講習会は座学・実習を本校と外部の施設で行った後、最後の3日間を富士アニマルファームで実技習得します。
 大学の実習では精子・卵子・受精卵の基本操作を行いましたが、中でも印象に残ったのは受精卵の生産でした。概略を述べると、ブタとウシの卵巣から卵子を採取して、正常な卵子だけを選別します。体外で成熟した卵子と精子を体外受精して得られた受精卵を体外で約1週間培養します。一連の作業には無菌的な操作と素早く繊細な操作が求められました。システム経営学教室に所属している私は普段こういった細かい作業をしないため、最初は戸惑ってばかりでした。ペアを組んだ動物生殖学教室の相方の優しい指導を受けながら、何度も同じ操作を繰り返すことで、難しい操作にも何とか慣れていきました。受精が成功した受精卵が成長して、最終的に沢山の胚盤胞が生産できた時はこれまでの努力が報われた気がして、とても感激しました。

 アニマルファームでは乳牛の体型審査・発情鑑定・注入操作を行いました。人工授精師を目指す私はこのカリキュラムの中で注入操作の習得に傾注しました。実際にやってみると手の感覚のみで注入器を子宮に誘導する作業がとても難しく、残念ながら実習牛6頭の2頭は子宮体に達しませんでした。この実習を通して注入操作の感覚をつかむことはできましたが納得できる結果には至らなかったので、人工授精師になってからしっかり技術を習得できるように頑張りたいと思います。
 新型コロナウイルスの影響から今回のアニマルファームでの実習は例年の実習とは異なり、三密になりやすいセミナーハウスでの合宿は許可されませんでした。朝9時に出発して夜6時に大学で解散となるかなりハードな日帰り実習へと変更になりました。また、採卵・検卵・受精卵の評価・受精卵の凍結/融解操作実習は三密を避けるため学内で実施することになりました。多くの付属牧場を使った宿泊実習が中止になる中で、こういった形でも全ての講習会日程を終えることが出来ました。1日2回の体温測定度行動調査に応じていただいた受講生、付属牧場での実習を許可していただいた学長に感謝を申し上げます。また、今回の講習会に携わった先生方、卵巣を提供してくれた動物、そして注入操作などで利用した実習牛にも感謝します。ありがとうございました。

東京農工大学生物生産学科 宮木怜磨

 一か月間に及ぶ講習会を無事終えることができました。本来であれば、この夏は旅行や海山などを満喫していたかもしれませんが、新型コロナウイルスの影響により予定が皆無でした。そのような時に本講習会開催のお知らせをいただき、これは良い機会だと思い講習会への参加を決意しました。
 講習会のメインは卵操作や注入操作で慣れないものばかりでした。特に卵子操作は初めての体験ばかりで苦労しました。講習会が進むにつれ操作に慣れてきたのと同時に、油断も芽生えてきたのか、体外受精させるために自分で採取した豚の卵子を操作中に失くしてしまい、とても悔しい思いをしました。それでも牛の体外受精では胚盤胞を得ることができて感激しました。注入操作でも直腸検査時に思うように子宮頸管や子宮角を把握することができませんでした。しかし、最終日の富士アニマルファームでの実習でようやく少し感覚をつかむことができ、自分の成長を実感しました。

 この講習会を通して考えたことは大きく2つあります。1つは、食肉や乳製品を日々口にできることに対する感謝の再認識です。それは家畜となる動物たちの命への感謝はもちろんのこと、畜産が絶えないよう継承・発展させてきた生産者や技術者への感謝です。実際に自分で行ってみると、体外受精卵の作成や人工授精操作などは想像以上に繊細で高度な技術が必要であるということが分かりました。それと同時に、現在の食の豊かさを実現させた先人たちのたゆまぬ努力を想像させられました。2つ目は、新たな人間関係が生まれることの喜びです。私は他大からの参加だったため、他の講習会参加者とは初対面でしたがすぐに打ち解けることができました。新型コロナの影響で人間関係が希薄になっているにもかかわらず、新たな人間関係が築けることは大変貴重なことであると実感し、今後もこうした出会いの一つ一つを大切にしようと思います。
 最後になりますが、コロナ禍で細心の注意が必要とされる中、本講習会を完了できましたのは、牛島先生、岡田先生、富士アニマルファームの先生方、講師の方々のご尽力、そして真面目に楽しく一生懸命に取り組んできた仲間のおかげです。この場をお借りして感謝申し上げます。誠にありがとうございました。