獣医保健看護学科応用部門 講師 嶌本 樹
私は現在、アメリカのマサチューセッツ大学ダートマス校(UMassD)に留学しています。2026年6月から2027年3月までの9ヶ月間アメリカへ滞在する予定です。UMassDはマサチューセッツの州立大学で、ボストンから1時間半ほど離れたダートマスという小さい町にあります。マサチューセッツを含むニューイングランド地方はアメリカの独立運動の中心的な役割を果たした地域でもあるため、ボストンやダートマス近郊はアメリカの中では比較的長い歴史を持っています。海に面しており、ボストンを代表とする港町としても栄えたことから古い町並みや歴史的建造物が多く、時代を感じさせてくれます。気候は比較的日本に近く、西海岸のように乾燥した環境というよりは、湿潤で森林が広がる場所です。マサチューセッツに到着した6月当初は思っていたよりも蒸し暑かったことを覚えています。
UMassは複数のキャンパスを持っており、全体では7万人以上の学生が所属しています。大学全体でみると非常に大きいですが、ダートマス校自体は大学院生も含む学生数が約8千人程度の比較的規模の小さい大学です。しかし、およそ3千人程度の学生が寮に住んでいるため、キャンパス内は充実しています。生協のようなショップや食堂だけではなく、ウェンディーズ、スターバックス、ダンキンドーナツといったチェーン店なども入っていて、食べるところには困りません。また、キャンパスの建物は著名な建築家が設計しており、いわゆる大学らしい見た目ではなく、モダンな雰囲気を感じさせます。
▲マサチューセッツ大学の看板
▲大学の中に住む野生のカナダガン
▲図書館の外観
▲打ちっ放しのコンクリートの質感を活かした内観
私がUMassDを留学先として選んだ理由は受け入れ教員となってくれたMichael Sheriff教授がいたからです。私は動物生理学と生態学分野を繋げる境界領域の分野を専門としています。特に「ストレス」に興味を持っていて、野生動物のストレス状態の変化が何もたらすのか、ストレス状態は人為的な環境改変や人間活動に左右されるのかを研究しています。しかし、野生動物におけるストレス研究は非常に複雑で、「ストレスとは何なのか?」という疑問が常に絶えません。そして、その答えを提示するのも容易ではありませんでした。そのため、この答えを自分なりに見つけ、研究者・教育者として成長したいと考えていました。そこで、このような分野が非常に盛んな北米地域に目をつけました。
私がSheriff教授を選んだ理由は至って単純です。Sheriff教授は長年、生理学と生態学の統合分野に関する研究を行っており、この分野の第一人者です。初めて彼の論文を読んだ時、感動したことをいまでも覚えています。そんな人物と一緒に仕事をしたいとずっと考えていたため、今回Sheriffラボの扉を叩きました。現在は、道路騒音とストレスに関する研究プロジェクトに携わらせてもらい、大学院生と共に野外調査とデータサンプリングを行っていました。それについても少しご紹介します。
調査では、シロアシマウスという北米に広く生息するネズミをモデル生物として扱っています。私たちの研究では、道路に近接している森と遠く離れている森で捕獲調査を行い、ネズミたちからデータを取るのですが、このネズミは夜行性のため、夜動き出す前に森の中に罠を仕掛ける必要があります。そのため、夜な夜な高速道路の脇に車を停めて、森の中へ入っていきます。アジア人の私と金髪の欧米人の二人組で、いかにも怪しかったと思います。実際、調査を終えて車に戻った際に、警察に声をかけられたこともありました。大学や行政からの許可を得て調査しているので、何も問題はないのですが、なんだか少し貴重な体験をした気がしました。
ちなみに、設置した罠は翌朝回収するのですが、ネズミが捕獲されても基準を満たしていない個体だったりして、数を集めることに苦労しました。また、夜と早朝に調査に行かないといけないため、十分に身体を休めることができないときもありました。 野生動物の調査では、このように計画通りにいかないことや無理をしないといけない時も多々あります。しかし、調査をしないことには研究が始まらないので、野生動物の研究をしてみたいと思う学生の皆さんは覚悟しておいてください・・・!
▲雨の中罠を仕掛ける私
▲夜の森の中で調査する様子
今後は、道路騒音の研究とは異なるプロジェクトにも参加させてもらうことになり、早速別の仕事が始まりました。UMassDの中だけで完結するものではなく、アメリカ国内の他の大学やヨーロッパ・アジア圏の研究者も巻き込んだものです。これまで読んできた論文の著者らも参加しており、心躍る反面、プレッシャーも強く感じます。それでも国際的なコネクションを広げるチャンスであり、この経験を最大限自分の糧にできるように取り組んでいこうと思います。他にも、論文投稿やSociety for Integrative and Comparative Biologyという非常に大きな学会での研究発表も控えています。慣れないことも多いですが、残り5ヶ月間悔いのないように過ごしたいと思います。
▲Sheriff教授と私
■関連リンク