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「この一冊」 図書のご紹介

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オン・ザ・ロード
ジャック・ケルアック著
青山 南訳
池澤夏樹個人編集
世界文学全集1
河出書房新社

オン・ザ・ロード

ジャック・ケルアック著、青山 南訳
池澤夏樹個人編集 世界文学全集1:河出書房新社
2008/06/16更新 200806号
<行きづまったら路上へ、旅へ:ビート・ジェネレ-ション時代のアメリカを読む>

ときには小説も書架に並びます
河出書房新社が2007年11月から刊行を開始した全24巻36作品からなる世界文学全集は、常道である複数による編集方式をとらず、池澤夏樹個人が独自の視点で選んだ全集である。シェイクスピア、ゲーテに始まる従来の古典的定番ではなく、その構成の中心は20世紀後半の作品である。

第1巻、ジャック・ケルアックの<オン・ザ・ロード>は1950年代後半のアメリカ文学を席巻したビート・ジェネレーションを代表する作品である。1957年の出版で、第二次大戦後の40年代後半、アメリカ合衆国をバスで、車で、ヒッチハイクで駆け巡るアウトサイダーの若者たちが自由奔放に描かれ、ボブ・ディラン、ヒッピーたちに象徴される60年代のアメリカ文化に多大な影響を与えた。

戦勝後の世界経済を支配するアメリカにおいて、正統な経路でアメリカン・ドリームを実現しようとする人々のそれと対極にある若者たちの行動が、なぜ次代に多大な影響を及ぼしたのか。トルーマンからアイゼンハワー、ケネディへと移っていく時代、朝鮮戦争からキューバ危機、ベトナム戦争へと突入していく時代のアメリカにおけるビート・ジェネレーションとはなんだったのか。敗戦から現在まで、アメリカの政治・経済・文化の影響をもろに被り続けてきた日本で、混乱の今を生きる若い世代が、自分の存在の位置づけを探る一手段としても一読の価値はあるのではないか。

旅に出る、常軌を逸して路上を突っ走る、考えるより先に行動する。無惨な目に会いながら、なお妄動的、狂気的に旅を続ける彼らもまた、本流の対極においてアメリカン・ドリームを追いかけているようでもある。巻頭にこの旅の軌跡を印したアメリカ合衆国の地図が組み込まれ、新たな翻訳も軽妙で、スピーディにページをめくることができ、読みながら自分流のアメリカの旅を想像し、重ね合わせてもみたくなる。

ジョー・ディマジオがヤンキー・スタジアムに躍動し、スタンドのファンを総立ちにさせている時に、その一方で、先の見えない路上にいて、挫折を繰り返し、それでも主人公のぼく<サル>にとっては「すばらしすぎて、話さずにはいられない」旅を続けていた若者たちがアメリカにいたのである。

図書館 事務室長 松渕 昭夫