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「この一冊」 図書のご紹介

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分類番号は081。新書です。カウンターに近い順から、中公・岩波、トイレを挟んで、講談社現代新書と並んでます。最近面白かったのは講談社の「鉄道ひとつばなし2」。<鉄道全線シンポ>が笑えた。

生物と無生物のあいだ

福岡 伸一著 ( 講談社現代新書 1891 2007年)
2009/7/1更新 200912号
「”動的平衡 Dynamic Equilibrium”という言葉にも、シビレる」

まず最初にお知らせ。当館では現在、『新書大賞2009』(中央公論編集部)を展示しています(館内閲覧のみ)。掲載されている当館所蔵の新書も合わせて展示しており、こちらは貸出もできますので、どうぞご利用ください。夏休み頃まで展示してみるつもり。
さて―。
昨年の大賞受賞作である本書を読んでみた。通常なら手に取らない類のホンだ。
が、イッキ読みした! こんなに面白い本を今まで逃してたとは!
冒頭は、観光船サークルラインから見るNYの光景。自由の女神、クライスラービルと眺めているうちに、映画でも見かけるクィーンズボローブリッジまで読者は連れてこられる。
ここらで目が覚めるだろう。つまり「野口英世の業績で、今日、意味のあるものはほとんどない」という辺りで。
そう、彼が客死したとき、彼も世界もまだ知らなかったのだ。この世には自己複製機能を持った、微生物より小さな存在<ウィルス>があることを。複製のカギは―そう、DNAだ。
この《二重らせん》構造の核酸を見つけることが、どれほど科学者の悲願だったか! 生物学者である著者はさすがに巧い。説明する手法が際立っているのみならず、語り口がいいのだ。病原体の抽出液を素焼きの陶板で濾過する手、幾何学的に美しいウィルスの姿、古い研究室で顕微鏡を覗き込む老科学者の影と、まるでカメラが切り替わるように「見せて」くれる。
が、読み進むうちに読者はそれこそ、らせんのように絡み合ったドラマに気づくだろう。

科学者は変人ではない。著者の手で紙上に立ち上がった発見のドラマは、ワクワクするほど面白い。なぜ《二重らせん》なのか。なぜ原子はそれほど小さいのか。もし知識が、才能があったならば、誰でも夢中になってしまいそうな世界だ。だからこそ、そこには発見を競うデッドヒートや駆け引き、栄光や挫折、懺悔や弁解といったあらゆる場面があった。著者はその人間模様を巧みにあぶりだして見せる。
そしてそれに絡むように、次々に描き出されるのだ。
さらに、著者自身がおくったNY、ボストンでの研究生活が織り込まれ、まるで読者はディズニーランドのアトラクションに乗ったかのようだ。誤解を恐れずに言うなら『スター・ウォーズ』を見ているみたいだ。登場人物はみんなヨーダやアナキンのようにキャラが立ち、実験の描写はハリウッド製のSFXばりに迫ってくる。そこにフェルメールの名画まで組み合わせてのけた脚本は見事というほかない。
これは《三重らせん》のドラマと言えるかもしれない。50万部のベストセラーになっただけはある。生物学の本にしてはケレン味がありすぎるか? でも、滅法おもしろい。


図書館 司書 関口裕子