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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
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分類番号は489.56(書架番号 4/以前ご紹介した『日本の探鳥地』の近くですね!)。オオカミの本が並んでますよ! 犬と狼のふか~い関係に、納得。

犬の科学 ~ほんとうの性格・行動・歴史を知る

スティーブン・ブディアンスキー( 築地書館 2004年)
2009/7/15更新 200913号
「犬は、犬でありたいのだ」

犬についてのトリビアだと思って、手にとった本だった。
まず、犬の起源が紐解かれ、遺伝子時計によって「犬は人が飼いならした狼だ」という伝説に迫る。“犬種”の歴史の意外な浅さや、あらゆる形状の犬がいる不思議さについて語られるくだりは、とても興味深い。これはけっこう、読みデがあるな。
と、思うそばから、狼と犬の違い、犬の仕草、言葉、聴力、視力、“嗅ぎわけ”能力と、たたみかけるように濃い内容が繰り出される。その膨大な説明に溺れそうになった頃に、漸く、ある主張が見えてきたのだ。

それは、「人間中心主義」という愚かしさの告発である。例えば、動物固有の身体的能力や本能などを度外視し、“人間に近いことを証明する”方式の知能テスト。動物を理解せず、勝手に人間に当てはめる「擬人化」や思い込み。
そして著者は、返す刀で、犬の忠誠心や、一見人間に似通った感情表現や、まるでテレパシーのような能力(例;飼い主の帰宅を予知する)の実際を暴いていく。
本書は、実に綿密に構成されているように思う。
遺伝学から犬を説いたのは、犬の本能と能力を、正しく伝えるためだ。人間の思い込みを書きたてたのも、犬を貶めたいからではない。「私は犬を愛している」という言葉も、何も愛犬家の抗議がコワイわけではない。
知識をひけらかす本ではなかったのだ。

本書のキモは第7章以降にある。そこには犬のさまざまな問題行動と、人間の誤った対処法が次々と登場する。説明の連打は、ここで生きてくるのだ。犬に対して人間が、正しく「主人」として振舞えないと、何故犬自身が不幸になるか。実は罪悪感なんて持っていないくせに、何故、犬は粗相するとしょげてみせるのか。あの可憐な表情を見て「擬人化」しないのは難しい。が、それでは「問題犬」として処分されてしまう犬があとをたたない。
著者は、説明をし尽くしてでも、犬のために、納得してほしいのだ。

ルックス重視の近親交配に対して警告して終わる本書には「終章」がある。“犬は人間みたいだとほめられても、なぜなのかわからないし、ありがたいとも思わない。彼らは、犬でありたいのだ”――この一節は胸を打つ。
人間は、犬が人に似ているから愛するのか? そうではない筈だ、という著者の希望は“他者を理解するというのは、決して自らにひきつけて考えることではない”という強烈な主張でもある。参考文献をいちいち読み解く専門的知識がない筆者には、本書の科学的価値は判断できない。が、本書が、「科学」とはいったい何のためにあるのか、を示していることぐらいはわかるつもりだ。
本書の原題は”The Truth About Dogs”である。


図書館 司書 関口裕子