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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
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分類番号は645.4。でも、本書は 進路支援図書に入れる予定である。羊飼いの本なんて、そうはないもの。写真集としても優れた本なので、ぜひ手にとって和んでいただきたい

ひつじがすき

佐々倉裕美(文)・佐々倉実(写真) ( 山と渓谷社 2008年)
2009/11/15更新 200921号
「写真はいじらしく、文章は発見に満ちている。
 “もののあはれ”と”いとをかし“が同居した一冊」

書店で見つけて、手に取った本である。
表紙の写真がとにかくかわいい。「かわいい系動物写真集」のあらての一冊だな、と確信して中をのぞいてみた。
が、かわいいだけではないのだった! 羊牧場の四季折々の景色、柔らかな羊舎の中の光、どれもうつくしく、ちょっとめずらしい。そして内容には思わぬ奥の深さがある。不思議な本だ。

本に巻いてあるオビには「日本で初めてのひつじまるごと事典」とある。そうだろう。やさしい文章で丁寧に綴られているが、その内容の範囲は実に広い。
四季を通じた羊の生活、羊の飼い方(これも、羊飼いの心得から羊牧場の見取図、羊飼いの道具、羊の手に入れ方、エサ、放牧…と、ホントに具体的だ)、毛狩りや出産について、牧羊犬について、羊毛について(染め方や紡ぎ方まで!)、羊の写真の撮り方、日本での羊の歴史、羊関連語事典。
これだけ載せればリッパなものである。すべてわかりやすく、キレイな写真が沢山添えられていて、説明も読みやすい。
これはホントにすごいことなのだ。
なぜってこれだけかわいい本なら、ふだんは羊のことなどこれっぽっちも考えない、フツウの人も手に取るからだ。なかには子供に見せたい親御さんもいるだろう。親にねだって読みたがる子供もいそうである。
お母さんと一緒に本書をひろげた子は、かわいい写真とともに文章を読んで、さまざまな驚きに満たされるのではないだろうか。
おとなの羊は「べー」って鳴くんだ! 毛糸って、羊の毛から出来ているんだ! 羊の前歯は下しか無いんだ! 羊は草を引っこ抜いて食べないから、また生えてくるんだ!
いや、そもそも「白い羊だけじゃないんだ!」と驚いてしまうかもしれない。
(「ミックスひつじ図鑑」というページはいろいろな交配で生まれた「羊の顔写真」が並んでいる。いやー、こんなページ、初めて見た)
羊はメーメー鳴く白いふわふわした動物…と、画一的に考えていた読者には、小さいが新たな世界が広がることは間違いない。
本書を読んで「羊を見に行きたい」と見に行くひと、観光などで羊を見て本書を見つけるひとがいたらいいな、と思う。それは、世の中の多様性や、連鎖というものに興味を持つ、すばらしいキッカケになるはずである。

こんな本は、もっとあってもいい。世界は単純な、ワンパターンなものではないということを教えてくれる、面白い本。それは子供たちのためだけでなく、大人たちのためにもなるはずである。本とはそういうものなのだ。


図書館 司書 関口裕子