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ラブラドール~世界中で愛されている犬の秘密
分類番号は645.6。本書にもある『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』を続けて手に取るべし!いざ、底なしのラブ沼へ。このマーリーのコラム連載時は「うちの犬のほうがバカです」という飼い主愛に溢れたメールがたえなかったそうだ。

ラブラドール~世界中で愛されている犬の秘密

ベン・フォーグル著 川村まゆみ訳(株式会社エクスナレッジ 2017年)
2018/01/18更新201801号
この著者って、ブルース・フォーグルの息子さんじゃないか!
『あなたのイヌがわかる本』とか、当館にもフォーグル先生の本はたくさんある。なので文筆家というイメージが強かったけれど、本書を読むとバリバリの獣医さんだ。例えば犬種図鑑でも、先生の本だととても楽しい。その犬種特有の手触りや、鳴き声や性質や、かかりやすい疾患にいたるまで、飼い主さんが「そうそう!」と相槌をうってしまいそうに飼い主目線でつくってくれる。
著者のベン曰く「犬なしのフォーグル家なんて考えられない」。あの先生のご家族ならさもあろう。犬と共に育ったベン少年は、長じて「離島で1年暮らす」というリアリティ番組に参加する際も「1つだけ持っていっていいぜいたく品」になんと犬を選ぶのであった。そうして出会ったのが「インカ」という真っ黒なラブラドールの女の仔なのである。

本書はちょっとフシギな本で、タイトルどおりラブラドールという犬種についてさまざまに紹介された本であると同時に、著者とインカの長い旅について書かれた一冊でもある。著者はイギリス在住。ラブラドールとイギリスの縁は深い。エリザベス女王はコーギー好きで知られるが、サンドリンガムの犬舎にはラブラドールも常連らしい。この犬種が確立するにあたって、英国王室や貴族が果たした役割は大きかった。大英図書館にはバクルー伯爵所有のラブラドールの血統台帳まで残されているという。
有名人の名が次々登場する。マッカートニーやK・リチャーズ、シュワルツェネッガーやK・コスナー、ヘミングウェイやR・ダール。さらにはプーチンやクリントンやサルコジといった各国の大統領、懐かしい名前ではキッシンジャーまで。枚挙に暇がない。セレブ談だけでも相当読みでがあるが、なかには「インカに娘を紹介していいかしら」と微笑むK・ウインスレットといった、著者が遭遇したエピソードもあってすごい。
これらをつなげながら、ラブラドールという犬種の誕生と発展、人気を得る過程、メディアへの浸透と、ひとつの犬種が世界的にポピュラーになっていくさまが実感できるようになっている。インカ自身が有名になったように、映画やドラマで活躍するラブラドールも数多く、例えばラブラドールのお尻のアップからOPが始まる『ダウントン・アビー』がその1例だろう。ロケ地となったハイクレア城は現在もカーナーヴォン伯爵夫妻の住まいであり、もちろんラブラドールも飼っているのである。有名ドラマの裏話というだけでなく、現代のラブラドール事情にもなっていて、なかなか巧みだ。ご存知のように盲導犬の代表的な犬種でもあるが、それ以外にも、戦争や有事の際、または犯罪防止、最近では「がんを発見する」など、多彩な能力の犬たちについて具体的に読めるのも本書の魅力である。記憶に新しいテロや戦争の影にも、犬たちの活躍があったのだ。

しかしやはりインカ!このチャーミングな名の犬の存在感は大きい。ラブラドールらしく「心の底から食べ物を愛していた」という底知れない食欲(「だからこそ訓練しやすい。食べ物に釣られて何でもやる」というのがおかしい)、「お犬よし」とも言えそうなおマヌケなところ、「いつも笑顔を浮かべている」と評した「幸福な犬」たる気性、そして障害。インカはてんかんという持病を抱えていて、年を経るごとに大変になる。著者はこれを「血統のためでは」と推察した。この犬種に限らず、血統を重視するあまり近親交配を繰り返した弊害が「遺伝的な疾患」を生み出している。それらも避けずに紹介されている。

ベンの幼少時代から家族を持つまでの道のりと、インカをはじめ「犬の家族たち」を描くみずみずしい筆致に、不覚にも落涙すること数度。犬についての本なのかヒトについての本なのか。きっと、その両方だ。彼らはヒトと共にある。ラブラドールはヒトを愛している。いや、犬とはそういうものなのかもしれないけれど、彼らはとりわけ。
たぶんラブラドールを飼っているひとは、そう感じているのだろう。著者のように。
最終章では著者の息子ルドが、やはり真っ黒なラブラドールの仔犬ストームと出会う。彼らに、ひたすらに幸あれ。


図書館 司書 関口裕子