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なぜto不定詞はtoを付けるようになったのでしょう?

准教授 鴇﨑 敏彦(英語学教室)

 動物科学科・英語学教室では、これまで「A-Report」の中で、「sheep(羊)の複数形はなぜそのままsheepなのでしょう?」や「なぜ動物名はsheep(羊)で食用肉はmutton(羊肉)なのでしょう?」といった英語に関する素朴な疑問にお答えしてきました。今回は、「なぜto不定詞はtoを付けるようになったのでしょう?」という疑問にお答えします。
 英文法でto不定詞の3用法といえば、名詞的用法と形容詞的用法と副詞的用法であることをご存知の方は多いでしょう。to不定詞がtoを付けるようになった理由は、to不定詞がこれら3用法のうちの何用法から始まったかに大いに関係があります。起源以来の英語の歴史と発達を記録することを目指して編集された世界最大級の辞書であるOxford English Dictionary(2nd ed. on CD-ROM)で調べてみますと、to不定詞は副詞的用法から始まったとされていることが確認できます。次に、現代英語の典型的な副詞的用法の例文を示します。

  例1:I went to the park to play tennis.「私はテニスをするために公園に行った」

もちろん、この例1は上記の辞書に掲載されている古英語(450年頃~1100年頃の英語)の初出例の内容とは異なっていますが、「~するために」という意味を表すためになぜtoを選んだのかを考えてみましょう。実は、to不定詞のtoは、元々は純然たる前置詞で、to the parkのtoと同様に「~に向かって」という方向の意味で使われていたのです。この例文に当てはめて言えば、「テニスをするという行為に向かって」という意味でtoが使われていて、それが「~するために」という目的の意味で使われるようになったのです。
 現代英語でもto不定詞には方向の意味が残っていることが多く、原則として「(これから)ある動作に向かうこと」という未実現のことを表すために使われます。このto不定詞が持つ方向性という本質を理解していれば、次の例2と例3に見られるようなto不定詞と動名詞による意味の違いも容易に理解できるでしょう。

  例2:Please remember to lock the front door.「忘れずに玄関の鍵をかけてください」

  例3:I remember locking the front door.「私は玄関の鍵をかけたことを覚えている」

to不定詞の本質が方向性で、原則として未実現のことを表すために使われるのに対して、動名詞は「(実際に)していること」や「(実際に)したこと」といった事実を表す際に使われることが多いことも覚えておくと、目的語がto不定詞か動名詞かで意味が異なる例2と例3のような場合はもちろんのこと、その他の様々な場面でのto不定詞と動名詞の使い分けを理解する上でもきっと役立つでしょう。

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