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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
知りたい!考えてみたい!どうぶつとの暮らし

知りたい!考えてみたい!どうぶつとの暮らし

山川伊津子 堀井隆行 橋本直幸(2021年 株式会社駿河台出版社)
2022/02/10更新 202202号
分類番号は645.9
【家族のいない犬と猫をしあわせにするプロジェクト(HappyProject - ハッピープロジェクト)】応援企画。とうとう日本にもシェルターメディスンが!と嬉しかった。このコーナーをやっててよかった。

 私事であるが、最近、猫を看取った。
 長く老猫介護をしたあとで比較的若い猫をお迎えし、ちょっとのんびりしていたところ進行超速のガンに罹ってしまったものだから、みるみる悪化する病状に動転した。意思表明をしてくれない猫を囲んで獣医師と看護師と飼い主で相談を繰り返すことになり、正直、彼らの支えがなかったらどうなっていたか、考えるとおそろしい(本当にお世話になりました)。
 今はペットロス真っ只中で、ぼんやり「次の猫」について考えている。人生のほとんどを犬猫と生きてきた。が、今からお迎えしてもいいものか。
 先々代猫は、愛猫を残していった故人から引き継いだ。猫は本当に長寿になった。しかしたとえば友人の父上は「この猫を残していけない」という覚悟から、健康維持に努め近所付合いにも意欲的になり、元気ハツラツ猫飼い独居老人として、以前よりフレッシュに過ごしている。
 老人は伴侶動物と暮らすことを諦めるべき、というのは、本当にそうなのだろうか。

 そうやってモヤモヤしていた頃、本書を読んだ。良い本が、良いタイミングで目の前に現れるのは僥倖である。
 動物医療従事者は対人援助職として捉えては、という提案につくづく納得し、動物介在療法も含めて動物が人間の生活に及ぼす影響の大きさをあらためて考え、そして「Veterinary Social Work(動物社会福祉)」という言葉を知った。
 なるほど動物関連に特化したソーシャルワーク。人間とも深く関連している。
 One Healthという概念が浸透しつつある(当法人が掲げるテーマでもある)現在、動物と人間が持続可能に暮らせる社会を目指すには、筆者が悩んでいたあれこれも含め、さまざまに考えるポイントがあるのである。
 それは伴侶動物を飼っていない方にも同様で、例えば介助犬や災害時のペット避難に関して理解が進んで行けば、社会は変わる。

 「シェルターメディスン」についても、国内の一般書籍できちんと解説されたのは初めてではないだろうか。
 洋書はすでに専門書が複数、当館にもある。動物のシェルターという存在も社会的に認知されている。が、そのシェルターにいる動物に特化した医療については、日本ではまだほとんど知られていない。
 シェルターに収容されている愛玩動物が目指すべき状態は、慈しんでくれる里親に譲渡されることであり、譲渡率をあげるためには健全で科学的な運営をされるべきである。シェルターメディスンはそのための医療だ。
 しかし国内ではまず、なぜこれほどシェルターに動物が集まってしまうかという分析が充分になされていない。現在、国内には大小さまざまのシェルターがある。だが、動物がシェルターに来るまでの過程、そしてどうやら、シェルターにもたどりつけずにいるらしい過程というのは、まだきちんと解明されていないのだ。
 「殺処分ゼロ」というのは動物愛護家にとって至福の言葉だが、それは果たして何を意味するのか。本書はそこも指摘する。

 「持続可能」という言葉を目指すとき、いつも社会は厳しい現実をつきつけられる。 だが、認識されなければ前進もしない。
 本書には「犬のしつけにはヒトとの上下関係が大事!」というのが前時代の神話であり、悪影響を受けているワンさんが沢山いる。早くアップデートしよう!といった、犬飼いさん向けの実用的なページもある。
 さらに、これから国家資格となる愛玩動物看護師は、もっと社会的に多様な役割を担っていくのではないか、という可能性も本書には見えている。看護師さんを目指すひとはもちろん、自治体や病院関係者にもヒントが多いのではないだろうか。
 出版がつづく犬本・猫本のなかでもきわめてユニークな一冊だ。仕事でも私的にも犬猫本に囲まれている筆者がそう思うのだから、それだけは間違いない。世界変わった。



図書館 司書 関口裕子
家族のいない犬と猫をしあわせにするプロジェクト
※このクラウドファンディングは2022年3月16日に終了しました。
ご協力ありがとうございました。