
第16号:「囲炉裏のある風景 」

玄関の引き戸を開けると、正面に囲炉裏の間がある。寒くなると、大きな木を燃やして暖を取る。昔ながらの囲炉裏の風景がそこにはある。黒光りする柱や梁、白い煙はその漆黒の天井へと吸い込まれていく。囲炉裏には、自在鉤が吊るされ、それに鉄瓶や鉄鍋が架かり、生活の用を足している。直火で川魚やモチを焼き、鉄鍋で時間をかけ、コトコトと煮込んだ山菜粥を、フウフウいいながら食べる美味しさ、また秋の夜長、この空間で一献傾けるのも一興だ。 落ち着いた雰囲気の中で、ゆったりと寛いで食事を愉しむ時、人は時間を越えて古人になった気分に浸れる。誰でもノスタルジーを感ぜずにはいられないだろう。懐かしさとぬくもりが心を和ませる。
日本の素晴らしい伝統的な食文化継承が、囲炉裏と共になくなってゆくことは、とても淋しく残念である。

