食のいま
前へ戻る

第56号: お酒のお話 ―その①諸白酒―

 私たちの研究室では、お酒の殺菌についての研究を行っております。先日、そのことを知る大阪に住む大学時代の先輩の奥様に、清酒発祥の地とされている菩提山正暦寺に連れて行っていただきましたので、今回は清酒の歴史に触れたいと思います。
 今日の清酒の原型である諸白酒は、奈良(南都)の菩提山正暦寺で創製され、室町時代から「菩提泉」・「山樽」・「南都諸白」などの名で親しまれ、時の将軍足利義政をして天下の名酒と評され、織田信長や徳川家康ばかりか幕下の武将からも高い評価を得て、17世紀の伊丹諸白の台頭まで一世を風靡したとされています。諸白酒とは、麹米、掛米ともに精白米を使って醸造した澄み酒のことであり、それまでの「どぶろく」と呼ばれる白く濁った酒から大きな変貌を遂げました。この頃に、酒母に米麹・蒸し米・水を三回に分けて加える三段仕込みや、火入れという清酒の腐敗を防ぐための熱処理も行われるようになり、日本酒作りに一大技術革新が起きました。今日の清酒の火入れの目的は、生酒の殺菌、残存酵素の失活、風味の熟成の3つとされていますが、諸白酒の場合もおそらく同様であったと考えられます。今日の清酒の火入れは、62~67℃、時には70~72℃で行われていますが、温度計のなかった時代は火入れ温度を驚くべきことに手の感覚に頼り、酒質によって3段階(43~45℃、55~57℃、65~70℃)に設定しており、高度な酒造技術が確立されていたことがわかります。
 このように、室町時代に確立された高度な酒造技術によって造られた清酒を今宵も楽しみたいと思います。
正暦寺にある「日本清酒発祥之地」の石碑
▲正暦寺にある「日本清酒発祥之地」の石碑