研究内容
犬の繁殖生理は、他の哺乳動物と異なり特徴的な点が多くあります。犬の繁殖を成功させるためには、この繁殖生理を十分に解明することが必要です。これらの研究から明らかとなった成果を、できる限り臨床的に応用できることを目的に研究を進めています。
特に興味を持っている研究は、犬の凍結精液に関する研究です。犬の精子は、他の動物に比較して耐凍性が低く低温に対する障害を受けやすいことから、犬凍結精液の研究は他の哺乳動物のものに比較して遅れをとっていました。これまで犬の凍結精液に関する研究を続けてきており、凍結融解後の精液を用いて外科的子宮内人工授精を行うことで高い受胎率を得ることができることを明らかにしてきました。しかし、この授精方法は手術を必要とすることから、動物に与えるストレスが少ない非外科的な経頸管子宮内授精が求められています。しかし現状の犬凍結精液は融解後の寿命が短く、経頸管子宮内授精では卵管まで精子が到達することができないこともあるため、外科的な方法よりも受胎成績がやや低いことが知られています。またこの方法は高価な器械が必要であること、技術的に熟練が必要となるという欠点も挙げられます。犬は単発情動物であることから発情周期が長い(発情から次の発情までの間隔が長い)ため、犬の妊娠可能年齢を考慮した場合、1回の不妊はかなりの損失となります。したがって、凍結精液を用いた人工授精においても確実に妊娠させることが重要です。このような背景から、犬凍結精液の融解後の性状を現在のものよりもさらに良好にするための改良が不可欠であると考え,研究を進めています。具体的には、融解後の運動性を高くして精子の寿命が長くなるような犬凍結精液の作成方法を改良することで、経頸管子宮内授精による受胎率を上昇させるだけでなく、これまで受胎させることが難しかった腟内授精でも受胎させることが可能にすることを目指しています。これらの研究の進展により、世界の多くの国で必要とされる補助犬の数を確保することが可能になることと考えています。
またその他の研究としては、犬と猫の人工繁殖技術に関する研究を応用し、動物園や他の繁殖施設との共同研究として、飼育下希少野生動物の人工繁殖に関する研究についても行っています。
本研究室には、私の他に小林 正典 准教授と小林 正人 助教が所属しております。小林 正典 准教授は、犬の前立腺癌の発症メカニズムや早期診断法、新規治療法の確立に向けた研究、造精機能障害の治療および精巣腫瘍の発生メカニズムの病態解明、また小林 正人 助教は、犬の妊娠維持に関与する胎子免疫寛容の解明とその臨床応用に関する研究を主に行っております。