動物生体機構学

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概要

 動物看護の現場で遭遇する種々の疾患の原因、発症機序及び組織発生を解明するため、分子遺伝学、分子生理学、微生物学・分子微生物学、免疫学、疫学などの科学的手法を用いて多面的視点から研究を行う。動物看護で重要な輸血不適合に関与する血液型物質の分子基盤の解明、動物の病原ウイルス感染症の病態と感染制御法に関する研究課題を与え、実験方法や実験結果及び考察などの充分な討論を通して、研究内容に対する深い洞察力を養い、研究成果を論文として完成させる。獣医保健看護学分野で牽引役となるべき能力をそなえた教育・研究者及び指導的実践者を養成する。

指導教員

近江 俊徳 -OMI Toshinori-

博士課程(前期)及び博士課程(後期)の指導教員
学位 : 医学博士(自治医科大学 (JMU))
職位 : 教授
KAKEN研究者番号 : 40296091
主たる研究テーマ
人および伴侶動物における血液型物質の分子、遺伝医学的研究
研究キーワード
動物遺伝学・人類遺伝学・ゲノムDNA・遺伝標識・血液型物質
場所 : E棟4階
獣医保健看護学基礎部門(比較遺伝学研究分野)
E-mail : t.omi(@mark)nvlu.ac.jp
詳細

研究内容

 これまで、自治医科大学においてヒトの輸血に重要なRh式血液型[1]や三日熱マラリア原虫の受容体である Duffy 式血液型[2]や本態性高血圧の分子遺伝学的解析[3]、スイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校で動物の血液型の責任遺伝子を同定してきました。その後、獣医学部獣医保健看護学の分野に入り「医療・福祉に役立つ遺伝情報の探求」を理念に研究室を運営しています。
 ヒトと同様に伴侶動物における輸血療法は有効かつ不可欠で、安全な輸血医療を行う上で血液型物質の研究は臨床的に重要です。また、獣医臨床の現場では愛玩動物動物看護師の方々が血液型検査を実施する機会も増えています。さらに、血液型物質は輸血のみならず、その本体は何らかの生理機能を有し、また一部は疾患とも関連しています。そのような背景から、現在獣医保健看護学に血液型物質を中心とした分子遺伝学的研究を展開しています。また、分子遺伝学は様々な解析のツールですので、血液型物質のみ捉われず獣医保健看護学領域で興味のあるテーマにも取り組んでいます。

図 ネコAB式血液型における交差適合試験不適合ネコの表現型と遺伝子型の特徴[4]

指導方針

 獣医保健看護学専攻修士課程は2009年4月に設置から、2011年4月に獣医保健看護学専攻を博士前期課程(2年制)と博士後期課程(3年制)に課程変更を経て約15年が経過しました。この間、獣医保健看護学基礎部門(比較遺伝学研究分野)で主たる研究を行い、修士(獣医保健看護学)の学位を取得した者は、近江教授8名、落合准教授(2020年獣医衛生学研究室へ移動)4名の計12名、博士(獣医保健看護学)は近江教授2名と、比較的コンスタントに大学院生が在籍する研究室です。この他にも大学院生の遺伝子解析等の研究指導などを必要に応じ行なっています。現在の大学院生の指導は、主指導教員のとして近江が、副指導教員として宇田川講師(当研究室で博士の学位を取得しその後他研究機関のポスドクを経て着任)の2名体制です。研究の具体的な内容は主に血液型物質をテーマーに立案します。インパクトのある研究成果は英文学術誌に掲載されます[4-6]。解析技術は、分子遺伝学的手法が中心ですが、タンパク質の解析など学内協力者と連携して技術を修得する事も可能です。研究倫理、学会発表、論文作成などの方法も適宜丁寧に指導することを心がけています。本研究分野の研究に興味のある方はご連絡をお願いします。

主な学術論文

1. Omi T, Okuda H, et.al. (2020). (近江第一著者,責任著者)
Detection of Rh23 in the partial D phenotype associated with the D(Va) category.
Transfusion, 40(2), 256-8
DOI: 10.1046/j.1537-2995.2000.40020256.x
2. Iwamoto S, Omi T et.al. (1995). (近江第二著者)
Genomic organization of the glycoprotein D gene: Duffy blood group Fya/Fyb alloantigen system is associated with a polymorphism at the 44-amino acid residue.
Blood, 85(3), 622-6.
3. Omi T, Kumada M, et.al. (2006). (近江第一著者)
An intronic variable number of tandem repeat polymorphisms of the cold-induced autoinflammatory syndrome 1 (CIAS1) gene modifies gene expression and is associated with essential hypertension.
Eur J Hum Genet, 14(12), 1295-305.
DOI: 10.1038/sj.ejhg.5201698
4. Uno Y. Yaguchi M. et.al. (2021). (博士後期大学院生第一著者、近江責任著者)
Phenotypic and Genetic Characterization for Incompatible Cross-Match Cases in the Feline AB Blood Group System.
Front Vet Sci, 13:8:720445
DOI: 10.3389/fvets.2021.720445, eCollection 2021.
5. Uno Y. Kawakami S. et.al. (2019). (博士後期大学院生第一著者、近江責任著者)
Molecular characterization of cytidine monophospho-N-acetylneuraminic acid hydroxylase (CMAH) associated with the erythrocyte antigens in dogs.
Canine Genet Epidemiol, 7:6:9.
DOI: 10.1186/s40575-019-0076-1. eCollection 2019.
6. Omi T. Nakazawa S. et.al. (2016). (博士前期大学院生共同第一著者、近江責任著者)
Molecular Characterization of the Cytidine Monophosphate-N-Acetylneuraminic Acid Hydroxylase (CMAH) Gene Associated with the Feline AB Blood Group System
PLoS One, 11(10):e0165000.
DOI: 10.1371/journal.pone.0165000, eCollection 2016.
業績詳細(Researchmap)






青木 博史 -AOKI Hiroshi-

博士課程(前期)及び博士課程(後期)の指導教員
学位 : 博士(獣医学)(北海道大学)
職位 : 教授
KAKEN研究者番号 : 10440067
研究キーワード
動物ウイルス感染症、ペスチウイルス感染症、ウイルス学、分子ウイルス学、感染症疫学、検査学、ワクチン・診断薬、ウイルス検査法改良、動物衛生、予防獣医学、感染管理
場所 : E棟4階 微生物・感染症学研究分野
E-mail : aokihir(@mark)nvlu.ac.jp
詳細

研究内容

 動物ウイルス感染症を研究対象とし、国内で身近に又は日常的に発生し、問題となっている動物ウイルス感染症に目を向け、その予防、制御又は撲滅を目指して、多角的な視点と技術をもって研究に取り組みます。特に、ペスチウイルス属の牛ウイルス性下痢ウイルス、非定型豚ペスチウイルス、羊ボーダー病ウイルスを原因とするペスチウイルス感染症の基礎的及び実践的な研究に重点的に取り組んでおり、同属の豚熱ウイルスの対策に寄与する調査・研究も行っています。ペスチウイルス研究は国内トップクラスです。その他、非エンベロープ小型球形ウイルス(犬・猫・豚のパルボウイルス、豚サーコウイルスなど)の調査・研究も行っており、臨床現場で必須の診断や予防に関するテーマに取り組んでいます。

 これら感染症を克服するために、組織培養、分子ウイルス、分子生物、病理、遺伝子組換え、血清疫学、疫学(統計・解析)など様々な技術を積極的に導入し、科学的根拠に裏付けられた成果の蓄積に努めています。

■ペスチウイルスの病原性、自然免疫制御、Quasispeciesと干渉現象に関する研究
■ペスチウイルスの宿主特異性(種の壁)、異種動物感染獲得メカニズムに関する研究
■新たに見つかった非定型豚ペスチウイルスに関する総合的研究
■新たなワクチンや診断薬などの基礎的開発(ペスチウイルス及びサーコウイルス)
■感染管理に関する調査・研究(ウイルス不活化や消毒の効果評価、伝播経路調査など)
■流行調査(生物学的及び分子疫学的な技術を併用した調査)

指導方針

 愛玩動物看護師または獣医療技術者として、社会又は獣医療に貢献し、獣医保健看護学の発展に寄与することを基本とします。そのうえで、subspecialtyとしての動物衛生または動物感染管理の実践と調査・研究を専門的に取り組める人材の育成を行います。

博士課程(前期):研究に必要な基礎的スキルの修得を心掛けた研究指導
博士課程(後期):自主的・実践的な研究とキャリアアップの推進を心掛けた研究指導

その他

1) 病原ウイルスや遺伝子組換え実験の研究を常時行っているため、以下の基本的な知識と技術を修得済みであることが望ましいです。
・組織培養技術(初代細胞及び株化細胞の維持など)
・バイオセーフティレベル2に必要な微生物学標準技術
・拡散防止措置レベルP2の遺伝子組換え実験技術
2) コアタイムがあります。また、教員及び大学院生だけで行う研究進捗ミーティングを定期的に行っています。
3) 「ウイルス感染症」という生物現象を相手に、「面白い」や「どうなっているだろう」などの基礎的探究から、「感染症から動物を守りたい」に繋がる診断・予防法への応用まで展開しています。「動物ウイルス感染症を一つでも日本から無くしたい!」に一緒に本気で取り組んでいただける方を歓迎します。

主な学術論文

1. Mai Shiokawa, Yui Morita, Makoto Nagai, Makoto Haritani, Hiroshi Aoki. (2023).
Isolation and artificial production of atypical porcine pestivirus, using the swine-kidney-derived cell line SK-L.
Arch Virol, 168(12), 294.
DOI: 10.1007/s00705-023-05919-y
2. Moe Shioda, Mai Shiokawa, Hiroshi Aoki. (2023). (筆頭:学部生)
Establishment of guinea pig kidney cell lines with potential application in the production of a classical swine fever live GPE− vaccine.
J Vet Med Sci, 85(3), 308-317.
DOI: 10.1292/jvms.22-0385
3. Mai Shiokawa, Tsutomu Omatsu, Hiroshi Aoki, et al. (2019).
END-phenomenon negative bovine viral diarrhea virus that induces the host’s innate immune response supports propagation of BVDVs with different immunological properties.
Virology, 583, 97-110.
DOI: 10.1016/j.virol.2019.09.016
4. Shuhei Hosono, Mai Shiokawa, Tsubasa Kobayashi, Akio Fukusho, Hiroshi Aoki. (2019). (筆頭:博士(前期)大学院生)
Porcine circovirus type 2 induces a strong cytopathic effect in the serum-free culture cell line CPK-NS cells.
J Virol Methods, 273, 113706.
DOI: 10.1016/j.jviromet.2019.113706
5. Hiroshi Aoki, Fujiko Sunaga, Hideharu Ochiai, et al. (2019).
Phylogenetic analyses of novel posaviruses detected in feces of Japanese pigs with posaviruses and posa-like viruses of vertebrates and invertebrates.
Arch Virol, 164(8), 2147-2151.
DOI: 10.1007/s00705-019-04289-8
6. Kaoru Nishine, Hiroshi Aoki, Yoshihiro Sakoda, Akio Fukusho. (2014). (筆頭:博士(後期)大学院生)
Field Distribution of Exaltation of Newcastle disease virus phenomenon-negative bovine viral diarrhea virus.
J Vet Med Sci, 76(12), 1635-1639.
DOI: 10.1292/jvms.14-0220
7. Hiroshi Aoki, Kiyoyasu Ishikawa, Hideto Sekiguchi, Shoko Suzuki, Akio Fukusho. (2003).
Pathogenicity and kinetics of virus propagation in swine infected with the cytopathogenic classical swine fever virus containing defective interfering particles.
Arch Virol, 148(2), 297-310.
DOI: 10.1007/s00705-002-0907-2
8. Hiroshi Aoki, Kiyoyasu Ishikawa, Yoshihiro Sakoda, Hideto Sekiguchi, Michi Kodama, Shoko Suzuki, Akio Fukusho. (2001).
Characterization of classical swine fever virus associated with defective interfering particles containing a cytopathogenic subgenomic RNA isolated from wild boar.
J Vet Med Sci, 63(7), 751-758.
DOI: 10.1292/jvms.63.751
業績詳細(Researchmap)



袴田 陽二 -HAKAMATA Yoji-

学位 : 博士(獣医学)(日本獣医畜産大学)
職位 : 教授
※現在学生の募集は行っておりません
KAKEN研究者番号 : 00218380
ORCID ID : 0000-0002-0138-6692
主な研究テーマ
脳虚血神経細胞死、再生医療、水素ガス
研究キーワード
脳虚血、スナネズミ、水素ガス、トランスジェニック動物
場所 : E棟4階 基礎部門・生体機能学研究分野
E-mail : yhakama(@mark)nvlu.ac.jp
詳細

研究内容

 難治性疾患を克服するための実験医学を基本に動物モデルを用いた病態解析ならびに新規治療法の開発研究を行っています。利用する動物は市販のものではなく、自前で作出あるいは維持しているところに我々の研究の特徴があります。以下に、現在利用している動物モデルを紹介します。

1)スナネズミ(Mongolian gerbil)
中国モンゴル地方を起源とする齧歯類の仲間であるスナネズミは脳底動脈の走行に特徴が有り、簡便に脳虚血を誘導できることから脳虚血神経細胞死のモデルとして実績があります。現在、このモデルを用いてブラックベリーや芋の茎を基にした健康食品や医療用ガスの有効性の検証を行っています。

2)Luciferaseトランスジェニックラット
発光ホタル由来のluciferaseはルシフェリンを基質にATPとの化学反応でルミネッセンス発光を起こします。その発光波長は組織透過性が高く、体の深部での発光であっても、非侵襲的に体表から検出できます。現在、Luciferase遺伝子を有する幹細胞を用いた再生医療研究を行っています。

3)GFPマウスおよびラット
発光クラゲ由来のGFPは特定の基質を必要とせず、励起光下で緑色に発光します。発光輝度は強く、特異性が高いためも少数の細胞でも検出可能となり、幹細胞追跡ツールとして有効です。現在、自作したGFPマウスおよびラットを有し、組織幹細胞の分離、特性解析を行っています。

指導方針

 動物を用いた研究は根気と体力を要し、しかも得られた成績には誤差が出やすく、必ずしもスマートな研究手法とはいえません。生身の動物を使う実験の難しさを理解し、謙虚にデータと向き合う研究者になれるように指導します。最終的には、得られた結果を海外の英文雑誌に公表することを目指します。

主な学術論文

1. Eiji Kobayashi, Yoji Hakamata, Shin Enosawa, Kuang-Ming Shang, Hirotake Komatsu. (2024).
Firefly Rats: Illuminating the Scientific Community in Transplantation Research.
Cell Transplantation, 33:1-3.
DOI: 10.1177/09636897231224174
2. Kazuhisa Sugai, Momoko Hirano, Asahi Oda, Masahiko Fujisawa, Saori Shono, Katsumi Ishioka, Tomoyoshi Tamura, Yoshinori Katsumata, Motoaki Sano, Eiji Kobayashi. (2024).
Establishment and application of a new 4/6 infarct nephrectomy rat model for moderate chronic kidney disease.
Acta Cir Bras, 39. e391324.
DOI: 10.1590/acb391324
3. Masayuki Ohara, Jun Ishikawa, Syuhei Yoshimoto, Yoji Hakamata, Eiji Kobayashi. (2023).
A rat model of dual-flow liver machine perfusion system.
Acta Cir Bras, 38:e387723.
DOI: 10.1590/acb387723
4. Asahi Oda, Yoji Hakamata, Eiji Kobayashi. (2023).
Pre-Administration of Blackberry Extracts in Induced Ischemia Reperfusion Events in Rodents.
Metabolites, 13:1114-1116.
DOI: 10.3390/metabo13111114
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