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【新着論文】新種発見!特別天然記念物アマミノクロウサギの寄生虫3種

論 文 名:
Three new species of Eimeria (Apicomplexa: Eimeriidae) from the Amami rabbit, Pentalagus furnessi (Mammalia: Leporidae)
和訳)アマミノクロウサギ Pentalagus furnessi (哺乳綱:ウサギ科) 由来アイメリア属(アピコンプレックス門:アイメリア科)の3新種
著  者:
常盤俊大1)、周洵1)、北添日菜1)、伊藤圭子2)、鳥本亮太3)、所司悠希4)、三條場千寿4)
吉村久志5)、山本昌美5)
1.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医寄生虫学研究室
2.奄美いんまや動物病院
3.ゆいの島どうぶつ病院
4.東京大学大学院農学生命科学研究科
5.日本獣医生命科学大学獣医学部獣医保健看護学科・獣医保健看護学応用部門
 病態病理学研究分野
掲載雑誌:
International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife, 2022 Aug 18: 194-200.
Elsevier.
doi: 10.1016/j.ijppaw.2022.05.006

研究内容:
 2021年に世界自然遺産に登録された鹿児島県の奄美大島・徳之島(図1)には、固有で多様な動物が多数生息しています。日本獣医生命科学大学では、環境省の許可のもと、これら固有動物の寄生生物・病原体調査を実施し、学会や論文等でその成果を公開してきました。

▲図1.アマミノクロウサギとその生息地域

 アマミノクロウサギ(図1)は世界中で奄美大島と徳之島にのみ生息するウサギの1種で、本邦を代表する特に重要な動物として国の特別天然記念物に指定されています。今回、クロウサギの交通事故死個体の腸管内容や、野外で採取した糞便を調べたところ、これまで報告の無い寄生虫を3種発見しました。発見した寄生虫は、いわゆる「コクシジウム」とよばれる単細胞性の真核生物の原虫(原生生物)です。得られたコクシジウム3種を顕微鏡下で詳細に観察し、既知のウサギ類寄生種のそれと比較したところ、いずれも未記載のEimeria属原虫であると考え、新種として提唱しました(図2)。新種名は、幕末に奄美の自然誌「南東雑話」を著した名越左源太氏に由来する「Eimeria sagentae」、クロウサギの種記載に貢献した米国人類学者のW.H.ファーネス博士とH.M.ヒラ―博士に由来する「Eimeria furnessi」および「Eimeria hilleri」としました。

▲図2.アマミノクロウサギより検出したコクシジウム3新種のオーシスト
左からEimeria furnessiEimeria hilleriおよびEimeria sagentae

 今回発見したEimeria属は哺乳類だけでなく、鳥類や爬虫類、両生類、魚類など広範な脊椎動物に寄生することが知られています。しかしながら、その“種”のレベルでみると、宿主の特異性は厳密です。すなわち、同種のEimeria属は同じ動物にしか感染しないのが一般的で、宿主の“属”や“科”レベルの壁を越えて感染は成立しないとされています。従って、今回発見した3種のEimeria属は、おそらくクロウサギに寄生する固有種であり、人や他の在来哺乳類への感染リスクは相当低いものだと考えられます。一方で、今回提唱したEimeria属原虫3新種は、他のウサギ類寄生Eimeria属原虫と共通の形質をもち、かつ奄美大島と徳之島のクロウサギでも3種が感染していることから、ウサギ類に寄生するEimeria属を祖先原虫とし、クロウサギとともに大陸から分断された種であると推定されました。なお、家畜や家禽に寄生するEimeria属の一部には、病原性が高く、宿主に下痢や軟便等の消化器病を引き起こすものが知られています。クロウサギに寄生する3種の原虫の病原性は不明ですが、これまでにEimeria属の感染を原因とした死亡個体は発見されておらず、総合的な観点からみた野生下の個体に対する病原性は低いと推定しています。
 奄美大島や徳之島に生息する動物の固有性や多様性の高さついて、少しずつ理解が進んできています。今回の発見は、それら動物の体内には、さらに多くの固有で多様な寄生生物が存在していることの証左となります。一方で、原虫等の寄生生物は体内に潜み、かつ微小であることから、真の生物多様性を理解するためには地道かつ継続的な調査研究が必要です。

 本研究の一部は、公益財団法人自然保護助成基金第32期プロ・ナトゥーラ・ファンドの助成を受けて実施されました。

■研究者情報

常盤 俊大(獣医学部 獣医学科 獣医寄生虫学研究室・准教授)
吉村 久志(獣医学部 獣医保健看護学科 獣医保健看護学応用部門 病態病理学研究分野・講師)
山本 昌美(獣医学部 獣医保健看護学科 獣医保健看護学応用部門 病態病理学研究分野・准教授)