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【新着論文】「CTとMRIで猫の新しい脊髄疾患が判明!脊髄硬膜外動静脈瘻」

論 文 名:
Spinal epidural arteriovenous fistula in 3 cats
和訳)脊髄硬膜外動静脈瘻の猫3例
著  者:
弥吉直子、吉田佳倫、原康、湯祥彦、長谷川大輔、他
日本獣医生命科学大学付属動物医療センター、日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科獣医外科学研究室、日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科獣医放射線学研究室
掲載雑誌:
Journal of Veterinary Internal Medicine2022: 16523
doi: 10.1111/jvim.16523
研究内容:
 動静脈瘻とは血管奇形の一種であり、圧の高い動脈血流が静脈へと直接流入してしまう病態です。脊髄硬膜外動静脈瘻は脊髄を取り巻く硬膜の外で動脈と静脈との間にバイパス(動静脈瘻)が形成されたもので、硬膜外静脈へ流入した圧の高い動脈血により脊髄を鬱血させたり、あるいは拡張した静脈が脊髄を圧迫したりすることで神経症状を引き起こします。
 本論文で紹介した3例の猫はいずれも年齢が1〜3歳の若い成猫で、原因不明の間欠的な背部痛を呈して来院されました。神経学的検査、血液検査、頚部〜腰部のX線検査で異常は認められず、MRIにおいて上位胸髄周囲の静脈系の拡張所見が見られました。さらにCT血管造影を行ったところ、これらの静脈に動脈血の流入が認められたことから脊髄硬膜外動静脈瘻との診断に至りました。
 ヒトでは脊髄動静脈瘻の治療法として血管内治療と外科治療がありますが、猫のような小さな体格で血管内治療を行うことは技術的に難しく、この3例の猫に対してはいずれも脊髄を圧迫している血管を外科的に切除して脊髄を減圧したところ、術後2週間以内に症状の改善が認められました。
 これまでに猫の脊髄動静脈瘻の報告はなく、本論文は猫の脊髄硬膜外動静脈瘻の臨床症状や特徴的な画像所見、治療法について初めて報告するものです。

▲図は論文のFig 1を掲載します。
著作権はCC BY-NC-ND 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/)です。

図は14ヵ月齢で背部痛と両後肢の不全麻痺が見られた猫の(A)MRI矢状断像、(B)MRI第4−5胸椎間横断像、(C)同じ部位のCT血管造影横断像、(D)CT血管造影の3Dレンダリング、(E)術中所見、(F)術後のCT血管造影の3Dレンダリング。(A)で第4−5胸椎間に脊髄を横断するような血管像(矢印)が見え、(B矢印,C矢頭)ではそれが脊髄を取り囲んでいることが判ります。(D)の3D画像で、複数の脊椎周囲血管(矢頭)が奇静脈(矢印)に流れ込んでいるのが判りました。手術により脊髄表面を観察すると、脊髄の背側に血管が横たわっており(矢印)、これが脊髄を絞扼していました。手術ではこれを結紮して切断しました。手術後に再度CT血管造影を行うと、奇静脈と奇静脈へ流入する血管が消失しました(F:Dと比較して下さい)。この猫は手術後症状が消失しています。

■研究者情報

彌吉 直子(付属動物医療センター・助教)
吉田 佳倫(付属動物医療センター・助教)
原 康(獣医学部 獣医学科 獣医外科学研究室・教授)
長谷川 大輔(獣医学部 獣医学科 獣医放射線学研究室・教授)

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