ニュース news

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

【新着論文】ポメラニアンのてんかんにおける特徴的な発作症状:足のひきつけを伴う焦点性運動発作

論 文 名:
Clinical characterization of epileptic seizures in Pomeranians with idiopathic epilepsy or epilepsy of unknown cause
和訳)特発性および原因不明てんかんのポメラニアンにおけるてんかん発作の臨床的特徴付け
著  者:
湯 祥彦1)、長谷川 大輔 1),2)、金園 晨一3)、齋藤 弥代子4)
1)日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科獣医放射線学研究室
2)日本獣医生命科学大学生命科学総合研究センター
3)どうぶつの総合病院
4)麻布大学
掲載雑誌:
Journal of Veterinary Internal Medicine 36:2113-2122, 2022
doi: 10.1111/jvim.16578.
研究内容:
 私達、日本の獣医神経科医は日々の診療の中で、ポメラニアンのてんかんではたいてい共通した発作症状(発作型という)であること、そして抗てんかん発作薬で比較的良好に治療できることを、個人個人が印象・経験として持っていました。今回この各個人の印象・経験を、他施設からの情報も収集することで、科学的観点から一定の症候群としてまとめあげ、世界的に公表しました。
 特発性てんかん(発症が6ヵ月齢〜6歳)または原因不明のてんかん(発症が6ヵ月未満あるいは7歳以上)と診断されたポメラニアン28例を集めて、発作症状を詳細に解析しました。その結果78%(22/28)が焦点性発作を示し、そのうち95.5%(21/22)が四肢のいずれか1本の足(多くは片側前肢)のひきつけから始まる焦点性運動発作であることが判明しました。またこれらの症例のうち10例で脳波検査が行われ、9例でてんかん性異常波(多くは片側前頭〜頭頂部)が検出されていました。加えて、12例で抗てんかん発作薬による治療経過が得られ、うち5例は1剤または2剤の抗てんかん発作薬で1年以上発作なし、1例は1年に1回、他の症例も1年以下の観察期間ですが、概ね良好に発作が抑えられているという状況でした。ポメラニアン以外の犬種のてんかんで知られているてんかん関連の遺伝子(ADAM23)ハプロタイプについて、9例のてんかん発症ポメラニアンと8例の非てんかんポメラニアンのDNAを調査しましたが、結果として、てんかん発症ポメラニアンにおける既知の危険ハプロタイプの頻度は低く、関連性は低いものと考えられました。
 最終的に、我々がこれまで経験則と考えていた「ポメラニアンのてんかんでは、足を引きつける焦点性運動発作の発作型がほとんどで、かつ抗てんかん発作薬による治療反応生も良好である」ことが実証されました。この結果から、今回調査したADAM23の危険ハプロタイプとの関連は否定的でしたが、やはりポメラニアンという犬種で生じるてんかんには遺伝的素因が強く関与していることが推測できます。またポメラニアンのてんかんで認められている足を引きつける発作は、現在獣医神経病学で注目されているてんかん発作との鑑別が困難とされている発作性ジスキネジアという運動異常症とは異なり、れっきとしたてんかん発作であるということを啓蒙することができました。

■研究者情報

長谷川 大輔(獣医学部獣医学科 獣医放射線学研究室・教授)

■関連ページ

犬の難治性てんかんにおける脳梁離断術の効果:明らかな発作の減少と犬と飼い主のQOLの向上が確認される

長谷川大輔教授(獣医学部獣医学科)らが犬猫でのてんかん外科の2症例を報告 -獣医療における脳波やMRIを駆使したてんかん外科は世界初-

【新着論文】猫の難治性側頭葉てんかんに対するてんかん外科(側頭葉・海馬切除術)に世界で初めて成功!