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【新着論文】犬の乳がん幹細胞の自己複製能を標的とした阻害剤の探索~mTORシグナル阻害剤はがん幹細胞の自己複製能を抑制する~

論 文 名:
mTOR pathway as a potential therapeutic target for cancer stem cells in canine mammary carcinoma
和訳)犬の乳がんにおけるがん幹細胞の治療標的としてのmTOR経路
著  者:
道下正貴1,2、落合和彦2,3、中平嶺1、呰上大吾4、町田雪乃1、長島智和1
中川貴之5、石渡俊行6
1.日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医病理学研究室
2.日本獣医生命科学大学 生命科学総合研究センター
3.日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医衛生学研究室
4.東京農工大学 獣医臨床腫瘍学研究室
5.東京大学 獣医外科学研究室
6.東京都健康長寿医療センター研究所 老年病理学研究チーム
掲載雑誌:
Frontiers in Oncology, 2023 13:1100602.
doi: 10.3389/fonc.2023.1100602.
研究内容:
 犬の乳がんは、雌犬で高頻度に発生し、リンパ節や肺転移を示す臨床挙動の悪いがんです。しかしながら、早期の外科的切除以外に確立された治療法がありません。犬の乳がんは、臨床的特徴、不均一性、遺伝的異常など、ヒトの乳がんと多くの共通点があります。乳がんの発症には、自己複製能、分化能を有するがん幹細胞 (cancer stem cells, CSC)が根源となり、がん組織はCSCとそれらから分化するがん細胞で構築されています(図1)。また、CSCは薬剤や放射線治療に低感受性であるため、従来のがん治療法では、CSCを排除することができません(図1)。そのため、CSC を標的とする治療戦略が必要不可欠です。
 本研究は、犬の乳がんにおけるCSC の自己複製能を抑制する阻害剤をin vitroスクリーニングで抽出し、さらに抽出された阻害剤を対象に、in vivoスクリーニングで腫瘍抑制効果を評価しました(図2)。本論文では、mammalian target of rapamycin (mTOR)シグナルの研究成果について報告しました。犬乳がんのCSCでは、mTORシグナルが活性化しており、mTOR阻害剤はそれらの活性化を抑制し、自己複製能により形成されるsphere(浮遊細胞塊)の数、サイズの減少を引き起こしました。さらに、犬の乳がんのCSC移植モデルマウスでは、mTOR阻害剤の抗腫瘍効果を明らかにしました。これらの結果より、mTOR シグナル阻害剤が犬の乳がんのCSC標的治療として有用であることが明らかとなりました。今後、mTORシグナル経路に加え、抽出された他の阻害剤についても研究を進め、獣医療への応用を目指します。

■研究者情報

道下正貴(獣医学部獣医学科 獣医病理学研究室・准教授)
落合和彦(獣医学部獣医学科 獣医衛生学研究室・准教授)
町田雪乃(獣医学科 獣医病理学研究室・講師)

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