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【新着論文】発生がまれな猫の気管腫瘤に対し、日本国内の多施設が共同で実施した初の臨床研究

論 文 名:
Retrospective study of feline tracheal mass lesions
和訳)猫の気管腫瘤に対する回顧的研究
著  者:
藤原亜紀
日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科獣医放射線学研究室
掲載雑誌:
J Feline Med Surg.2023 May;25(5):1098612X231164611.
doi: 10.1177/1098612X231164611.
研究内容:
 猫の気管腫瘍の発生はまれで、また気管支鏡を有さない施設でないと診断ができないこともあり、対応の難しい疾患です。これまでの報告はいくつかの症例報告のみであり、世界的にもまとまった研究はありませんでした。そのためどのような病理組織型が多いなどの病態発生や治療と予後などについては不明でした。発生がまれな腫瘍であるため、一つの施設では多くの症例データをまとめることは難しいと考え、日本国内の複数の大学および二次診療施設と共同で研究を進めました。本研究は研究責任者として日本獣医生命科学大学の藤原が取りまとめを行った、東京大学、北海道大学、日本小動物がんセンター、ER八王子動物高度医療センターの5つの施設の獣医師による共同研究です。

全部で18症例が研究対象となり、年齢の中央値は10.7歳、病理組織型はリンパ腫が15頭と最も多くを占めていました。発生部位としては頚部気管が16頭と大半であり、診断法としては超音波ガイド下細胞診、気管支鏡下生検が主でした。気管リンパ腫の症例の治療としては化学療法が最も多く、放射線療法を併用した症例も含まれ、生存期間の中央値は214日でした。リンパ腫以外の気管腫瘍の生存期間中央値は21日であり、リンパ腫の生存期間と比較して有意に短い結果となりました。気管リンパ腫に対する治療についてはさまざまな施設で異なった治療が成されていたため、どの治療法が最適かを決定することは難しく、今後さらに症例数を蓄積しデータを集める必要があると考えられました。
(文責:藤原亜紀)

(A)頚部〜胸部X線画像。気管内を占拠する腫瘤が認められる(矢印)。本症例は呼吸状態が悪く、立位にてX線撮影を行った。
(B)気管内視鏡画像。気管内腔に腫瘤が認められ(矢印)、内視鏡鉗子にて生検を実施している。

(A’)正常な猫の頚部〜胸部X線画像。気管は管状にみえ腫瘤は認められない(矢印)。
(B’)正常な猫の気管内視鏡画像。正常な気管内腔は管腔構造となっている(矢印)。

■研究者情報

藤原亜紀(獣医学部獣医学科 獣医放射線学研究室・准教授)

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