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日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第232号:山羊の前肢骨折の症例について

2021/1/13 更新

産業動物臨床学研究室 金澤明日香(獣医学科4年次)

 私の所属している研究室では毎週土曜日に富士アニマルファームを訪問し、主に牛の身体検査、採血、繁殖検診、治療などの活動を行っています。

 今回、活動の一環として左前肢挙上を主訴とした山羊の症例の診断・治療を四年生三名で行わせて頂きました。本症例は骨折の可能性が考えられたことから、X線撮影装置を用いて左前肢を正面(AP像)からと左側面(LL像)から撮影したところ、中手骨の近位端に亀裂が入っていることが確認できました。X線検査より骨折していることは確定しましたが、骨折は開放骨折か閉鎖骨折かどうか、完全骨折か不完全骨折かどうか、斜骨折か横骨折かなど細かく分類分けされており、骨折の種類によって治療法も異なってくるため、正確な診断が求められます。そのためには正常な骨格に関する解剖学的知識や、骨折に対する治療法の外科的知識などの幅広い知識が必要ですが、なかなか診断を下すことが出来ず、日々の勉強不足を痛感しました。最終的に左前肢中手骨近位端閉鎖粉砕骨折と診断し、骨折部分全周をギブスで巻いて固定する外固定術を行いました。また、他の山羊との接触がないように単独飼育房での飼育環境を整えて頂きました。

 一か月後再度X線検査を行ったところ、骨折部位に骨の再生像である仮骨の生成が認められました。このままギプスを付けた状態にするか、ギプスを外すかのどちらの状態で様子を見るのかの判断に頭を悩ませましたが、ギプス装着の継続によって筋肉が細くなり力が落ちてしまうこと、関節が硬くなり前肢が曲がりにくくなることで可動域が狭まってしまう可能性があることを考慮し、ギプスを外して引き続き単独飼育房で経過観察を行いました。ギプスを外した直後はおぼつかない足取りでしたが、現在ではほぼ問題なく歩行が可能となるまで回復しました。

 今回私たちはX線装置の使用が初めてということもあり、手間取ることも多くありました。X線検査は骨折のみでなく、胸部や腹部を撮影して臓器の異常やガス、結石、腹水・胸水の診断などを行う際に臨床の場面で汎用される機器の一つであるため、今後使用して診断する機会も多くあると思います。今回の症例を通して機器の撮影方法や撮影画像の読影方法など多くのことを学ぶことができ、今後に役立つとても良い経験をさせて頂きました。

 自分たちの診断と治療で快方に導くことができ、達成感を感じることができました。今までの低学年の勉強は知識を頭に入れるインプットが中心でしたが、高学年となり今まで勉強してきた知識を繋ぎ合わせて適切な診断を下す難しさを実感しました。土台となる基礎知識をしっかりと構築し正確な診断を下せられるように今後も多くの経験を積み、日々一層勉学に励もうと思いました。ご指導いただいた先生方、ありがとうございました。

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