私たち産業動物臨床学研究室では、毎週土曜日に検診のため富士アニマルファームを訪問し、分娩後の泌乳牛の検査や病気の牛の治療を体験させていただいています。今回、牛の分娩に立ち会うという貴重な体験ができたため、その時の様子と感想を報告いたします。
2020年11月21日、分娩間近の牛がいると聞き分娩房に向かうと、落ち着きのない牛がいました。この牛はジャージー種の4産しているベテラン母牛で、乳房は張りがあり外陰部は弛緩し粘液が下垂していました。消毒した直腸検査用手袋を装着し外陰部から手を入れるとすぐに蹄、奥には頭や歯なども触って確かめることができました。胎子は頭位、上胎向で両前肢は伸長しており正常頭位であると判断しました。今回は難産ではありませんでしたが、勉強のために分娩介助をさせていただけることになりました。
牧場の萩田先生から説明を受けていると大きな破裂音がし、外陰部から大量の液体が噴出しました。腟内で尿膜が破け一次破水が起きた瞬間です。胎液は褐色で粘稠性はなく大量に出てきました。破水がおさまり、先輩が外陰部から手を入れると羊膜に包まれた前肢(足胞)が出てきました。ここからが分娩介助になります。羊膜を手で破き二次破水を起こすと、中からどろっとした粘稠性のある灰白色の羊水が排出され2本の前肢が露出しました。産科用ベルトを前肢にかけ、ベルトの真ん中に産科用のフックをかけ、ベルトを引っ張る人と産道を開く人に分かれ分娩介助を行いました。母牛のいきみにあわせて牽引していくと両前肢に次いで鼻先が現れ、さらに上側に産道を開くと頭、そして体幹部と順に出てきました。最後はするっと胎子は出てきて、一次破水から約10分の分娩となりました。
▲タオルで身体を拭いて綺麗に
先生が子牛の呼吸の確認をした後は、子牛の体についた胎水や胎膜をタオルで拭き取り、そして直ちに初乳を飲ませました。母牛は後産の排出が正常に行われないと後産停滞となり周産期疾病に繋がります。分娩後の回復を助け周産期疾患のリスクを減らすために母牛にはカルシウム剤や抗生物質の投与を行いました。
今回分娩介助をするにあたり、産科用ベルトは球節より後ろの前管に固定することで牽引時に外れにくくすること、胎子の骨盤が引っかからないようにロープを引っ張る方向は斜め下にすること、強く無理に引っぱらないで母牛の陣痛に合わせて牽引すること、胴体まで出たところで一旦胎子の頭を下向きに下げ、羊水を飲んでいないか確認する必要があることなどを学びました。また分娩後は双子がいないかすぐ子宮内を確認することや初乳は分娩後なるべく早く子牛に給与することなども教わりました。
▲初乳の様子
はじめての経験ばかりで、あっという間の時間でした。去年、実習として帝王切開を見学したことはありますが、分娩を見たのは今回が初めてでした。母牛が途中で苦しそうに鳴く姿に思わず「がんばれ」、と声をかけて励ましました。また、誕生した子牛をカウハッチに入れた後はすぐに何度も立ち上がろうとしては転ぶ活発な姿、初乳を必死に飲む姿に安心しました。分娩は母牛にとって命懸けの仕事であり、生命誕生の奇跡を改めて感じました。私は将来、将来産業動物臨床の獣医師として働く希望を持っていますが、分娩時の的確な判断、適切な処置は牛を守ることそして農家さんの経営にも繋がる責任感のある仕事であると実感しました。
今回、このような貴重な機会を設けていただいた牧場スタッフの方々、ご指導いただいた先生方、そして今回分娩を頑張ったジャージー牛に感謝します。ありがとうございました。
▲生まれて1か月半の様子