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「この一冊」 図書のご紹介

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新書は図書館入り口横から、中公、岩波、講談社と並んでいます。他にもクラシックやジャズの入門書あり。というか、音楽でも、スポーツでも、政治でも哲学でも、料理でも旅行でも、もうなんでも新書にはありますので「新書の森」にはぜひ入ってみてください。

ロマン派の交響曲―『未完成』から『悲愴』まで

金聖響+玉木正之 ( 講談社現代新書1990  2009年)
2010/4/15更新201002号
本書の「プレトーク」に、著者のアドバイスがある。
「世の中で大名曲といわれながら、自分はそれを聴いてもいまいちピンとこない、という方への秘策です。メチャメチャ単純なことなんですけど(中略)繰り返し繰り返し聴いてみてください」
わかる! だって『のだめカンタービレ』でベートーヴェンの交響曲第7番を、浅田真央で2年続けて『仮面舞踏会』を、それぞれ聴いているうちにスッカリ馴染んで好きになってしまったもの。CDの売上げも凄かったらしいから、それは筆者だけではなかったハズだ。
クラシック音楽も聴かないともったいない。そういうときは思う。
そして、そういう気分になったときに、本書は超オススメなのである。シューベルト、ベルリオーズ、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、そしてチャイコフスキーの音楽について(名曲からよく知らない曲まで)取り上げられている。
著者の金聖響氏は、現在は神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者。1970年生まれ。若々しさと穏やかさが感じられる口調がいい。各作曲家の生い立ちや、その曲をつくったときの状況、曲の展開、楽器の使い方などを、なだらかに滑らかに、次々とテンポよく語っているのだが、読んでいて「ちょうどいい」のである。
マニアックすぎない、専門書すぎない。でも、聴いてもいないその「音楽」を、いま聴きたい、と思わせてくれる。
実は2007年に出版された『ベートーヴェンの交響曲』(当館でも所蔵!)もとてもとても面白かったのだ。しかし本書の方は、曲目も(筆者には)馴染みがなく、しばらく読んでもいなかった。オロカであった。
馴染みのない曲こそ、読んで面白くなるのである!

本書には、コントラバスの低音のように「聴いてほしい」という思いが流れている。馴染みがないだけで、もしくはあまり芳しくない「定評」があるというだけで、この曲を聴かないなんて惜しすぎる!というキモチである。そのために、エピソードを紐解き、時代の流行や演奏者によって音楽は違うということを説明し、聴きどころを押さえ、時には著者本人の好き嫌いや業界の「ここだけの話」や関西弁まで披露しながら、およそ百年間に生み出された名曲たちについて、まさに「棒を振り切って」くれた。
なのにあとがきでは、「が、いちばんおすすめしたいのは、やはり何も先入観を持たず、何も情報を持たず、何も考えずに、音楽に身をゆだねていただくことです」と書いてしまう著者を、音楽家だなぁと好ましく思ってしまうのである。すぐれた筆によるならば、本のページからでも音楽は流れてくる。『のだめ』だって、絵で音を響かせていたではないか。そこからどれほど多くの人が,音楽そのものに導かれていったことだろう。

図書館 司書 関口裕子