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「この一冊」 - 図書の紹介- 201201号 | 「干支の動物誌」
干支の動物誌
阿部 禎[著]・小西正泰[監修] (技報堂出版 1994年)
2012/01/06更新201201号
分類番号は480.4。
巻末の「十二支の話」では、暦の雑学についても楽しめます。新年早々、まいりました。ガッツリ読みました。「辰」像についてアンケートを取ってみたいなぁ。みなさま、本年もどうぞよろしく。
小欄のため、非才ながら数多のジャンルの本を読んでいる。今までとんと縁のなかった分野の本も多い。
中には最初から最後まで、筆者にとってはほとんど「新知見」であった、というようなのもあった。この場合、それがバリバリの専門書であるとか、レアーでコアーでディープな一冊であるとかなら「いいお勉強になりました、ホホホのホ」で済むが、さて、今回はそれでよかったのか。
だってあなた、干支の話ですよ。
干支関連のトリビアなら、毎年、年末年始に散見される新聞記事やら雑誌コラムやらテレビニュースやらを始め、これまでの人生でイヤというほど目にした筈ではないか。
なのに、これほどまでに知らないことばかりというのはどうであろう。
本書は、ご想像のとおり、それぞれの干支についてエッセイ風に語った一冊である。
が、しょっぱなの「子(ネズミ)」から飛ばしている。“ドブネズミによる世界侵略史”はなかなかの迫力だ。登呂遺跡にあるネズミ返しはおそらくハツカネズミ用だった、という記載に始まり、ヨーロッパ、アメリカと繁殖していったドブネズミの発展史(?)、江戸時代の丙寅の大火は行灯の菜種油を舐めたネズミが油つぼをひっくり返したのが原因、と、いやぁ息つく暇もない。別の図書からの引用もあるのだが、それも1940年刊行の本で、大学図書館でも殆ど所蔵していないレア本である。引用だけでもすごい。
そして、これは「子」の章の“ホンの一部”なのだ。つれづれに話題は発展し、時代も地域もジャンルもまたいで文章は進んでいく。もう、舟に乗った気分で読み進む。
「丑」では、例えば17世紀に絶滅した野生ウシ・オーロックスがドイツで再生された話、「寅」ではインドの“プロジェクト・タイガー”、「卯」ではRabbitとHareの違いやオーストラリアのウサギ問題、「巳」ではヘビの蛇行原理…と、どれを読んでも「へぇぇぇぇ」。聖書やギリシア神話、『古事記』『日本書紀』への言及もあれば、漢字の成立ちの一説もあり(「羊」は、これだけでも面白い)、競馬、生類憐みの令、遺伝子、忠臣蔵、と、もうなんというか、一冊でどこまで行ってしまうのか。溜息である。はぁぁぁぁ。
あえて言うなら本書は、やはり動物と人間との関わりを綴った文化史であろう。
「丑」「午」「羊」「酉」たちは家畜として、「卯」や「戌」は例えばペットとして、「子」「寅」「巳」「申」「亥」は時に害獣であったり動物園のスターであったりして、どれも人と密接に関わってきた。これまでのいきさつを丁寧に紐解く著者の姿勢は、たとえそこに現代への疑問や苦言があったとしても、穏やかである。だから、本書は気軽に読み終えることができる。
そしてその後、つらつらと人間の営みに思いを馳せることができるだろう。これからも、人間は動物たちと共に、一緒に、生きていかねばならないのだ。
さてさて、本年は十二支の中で唯一、架空の動物である「辰」。本書の「辰」では『日本書記』、正倉院の宝物、龍とドラゴンの比較、とドラマチックに展開する。あらゆるトリビアを関連させ「いったい龍のイメージはどこから来たのか」というロマン溢るるテーマにした本章は、グッジョブ! オーパーツ、というユニークな概念への言及で終わる構成もお見事である。お読みになって、あらためてモンタージュを作成してみると面白そうだ。あなたにとって「辰」像は、具体的に言うとどんなカタチですか?
図書館 司書 関口裕子