この一冊
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見る目が変わる博物館の楽しみ方
分類番号は406.9。博物的なものは実用には役にたたない、などと言うなかれ!生物のすぐれた構造を人工的にパクっちゃえ!という「バイオミメティクス」研究も進んでいる。国立科学博物館も『バイオミメティクス』という本を出していて、もちろん所蔵済です☆

見る目が変わる博物館の楽しみ方

矢野興一 編著(株式会社文昇堂 2016年)
2017/04/28更新201704号
久しぶりに本コーナーの名物(?)「専門家さん大集合」本の登場です。
新鮮イカ学』『虫たちがいて、ぼくがいた』『猛禽類学』…専門家が寄ってたかって「その道」を語る一冊は、もう、どの本もキョーレツに面白い。本書も乞うご期待。

表紙には「地球・生物・人類を知る」というキャッチコピーが書いてある。まさしく博物館とはそういったものであるとも言え、なんとなくお勉強的である。だがその下にある写真は巨大な象を展示した華やかな1枚。映画『ナイト・ミュージアム』でも知られるNYの自然史博物館だ。第一章の著者がここでインフォメーションボランティアをしていた頃、いちばん聞かれたのは「大きなクジラはどこですか?」。
そう、漫画『BANANA FISH』のファンには忘れられない、実物大のシロナガスクジラの模型を天井から吊るした、有名な部屋のことだったそうだ。
あのクジラは模型である。では価値がないのか? 実は本書では複数の著者によって「レプリカでもガッカリしないで」というフレーズが呟かれる。本物は壊れやすく、管理しづらく、或いは貴重すぎて展示もできないなど事情があり、博物館では時に精巧なレプリカを作成する。だがそれを、間近でじっくり見る(時にはハンズオンという触れる展示も)という「体験」ができるのもまた、博物館の醍醐味なのだ。
そして、展示方法や収集方針によって、知の宝庫である博物館資料の、どこがすごいのか、なぜそれが貴重なのか魅せてくれる学芸員ズの腕の見せどころが圧巻で、本書のキモでもある。剥製やレプリカの作り方から、地道な(或いは驚きの)資料収集方法、さらには世界最古の隕石は実は日本の神社にあるなどというトリビアまで、気前よく語ってくれている。分野も鉱物・隕石/恐竜・古生物/菌類/植物/昆虫/魚類/動物/考古学と、実に多岐にわたるので、興味があるところだけでもお読みになれば、今後の博物館めぐりがよりディープになること受け合いである(ついでに言えばそれ以外の分野でも、読後俄然興味がわく可能性大である)。

「見る目が変わる」具体的な点は読者によって違うと思うが、例えば「恐竜の骨格展示は事実とは異なる可能性がある」という事など、改めてオォと思った。そうだよな、誰も見たことないんだから。そこを読んだ上で、例えばワニの鱗板骨(背中の鱗の下に敷き詰められた、四角い板的な骨)を復元の際に正確に並べるために、標本をホネにする過程で超絶めんどうくさい作業をするくだりなど、実に面白い。なぜそれほどこだわるかというと、まだ謎が多いワニの化石の鱗板骨を並べる際に、現代のワニの構造が役立つかもしれないじゃないか!という「学芸員の欲」があるからなのだそうだ。「欲」と表現するところがまたニクいではありませんか。
また、資料を収集・保管する舞台裏には「博物館ボランティア」という存在が欠かせない、というのも新鮮な驚きだった。「やってみたい!」と思う方もいらっしゃるのでは。私だ!と思う方は本書をお見逃しなく。
個人的にオススメの章は第8章「動物」の、第2節(「標本技術と博物館」)と第3節(「鳥類」)。どちらも文章が魅力的。剥製の中身を「あんこ」、あんこを詰めて成形しただけの剥製を「脚つき皮枕」と表現し、剥製というちょっと特異な存在についてユーモアたっぷりに語る第2節から、続いて「梅にウグイスというけれど、描かれているのはたいていメジロ」とすっぱぬき、「うぐいす餅はむしろめじろ餅と呼ぶべきです」と断ずる第3節を読むのは、いやぁなんだか楽しい時間だった。では江戸時代のヒトがウグイスとメジロを混同していたのかというとそうでもない、とキチンと説明してくれるのもさすがである。
他にもコケ類という珍しい分野で学芸員をされている方の(もんじゃ焼きのヘラで収集作業!)、コケでテラリウムやストラップをつくる体験学習についての工夫など興味深い。顕微鏡でコケを見てもらうと、毎回歓声が上がるという。

博物館はすぐ身近にありながら、実はプロフェッショナル達が巧みに構築した非日常の舞台といえる。どれほど多くのひとが、そこを出発に豊かな時間を過ごしていることだろう。願わくば本書から、各地の博物館に足を運んでくださる方が増えるよう、そしてまた次の本を手にとって下さる方が続きますよう。連休も始まることだし。


図書館 司書 関口裕子