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日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
カフェインの真実 賢く利用するために知っておくべきこと

カフェインの真実 賢く利用するために知っておくべきこと


マリー・カーペンター(株式会社 白揚社 2016年)
2017/06/05更新201705号
分類番号は498.55。調べてみたら、お茶のペットボトルとか思ったよりカフェインが多い。何より一日あたりの適正量というのが、意外に少量でびっくり。カフェインが体に合わない人も多く、体調にもよるらしい。気をつけなくちゃ。

読後、なんとも言えない気分になった。
「薬物屈指の優れものだが、強い薬の例に漏れず、重大な結果をもたらすことがあるものは何でしょう?」
本書のまえがき部分にあるなぞなぞである。ズバリ、カフェインの薬物的側面である。
それは苦くて白い粉状のもので、コーヒーなどから分離されるけれど、合成もできる。
そして、もはや生活のすみずみに浸透している。由来や形状や含有量が異なる「カフェイン達」について読むほどに、まるで著者が傍らにいて「ほら、あれにも、これにもカフェインが」と囁いてくるような気がした。実に大量の(馴染み深い)ブランド名や商品名が乱れ飛び、とても他人事と思えずグングン読み進めてしまうのがこわい。いったいどれほど摂取しているものやら。
が、よくある「警鐘ものノンフィクション」と微妙に違うのは、カフェインの悪をひたすらこきおろす、という方向性ではないところである。だって、あからさまな有害・有毒物質ではないのだカフェインは。コーヒーやお茶が美味しいことももちろんである。
ただ、時と場合と人によってコトは単純ではなく、読みながら時々背中が寒くなった。

カフェイン文化発祥のメキシコのコーヒー、伝統的な中国茶の世界などからカフェインを辿って現代まで世界をめぐることになるが、主な世情はアメリカを中心として書かれている。戦争や、世界のグローバル化など社会情勢も移りゆくが、驚くべきはその都度、カフェインは新たな産業の根幹となって登場することだ。まだコーヒーがどこ産とか入れ方がどうとか、うるさく言われない時代から始まり、コーラなど炭酸飲料の登場、グルメコーヒーやスターバックスの繁栄と、そのあたりまでは割りとのんびり読んでいたが、「レッドブル」などの新世代エナジードリンクががぶり寄ってきたあたりからキナ臭くなってきた。「エナジーショット」という60mlボトルのものも海外では人気らしい。もちろん紅茶や緑茶のボトル飲料もあるし、果てはフルーツジュースにもカフェイン添加があるというから驚きだ。
カフェインの独特の苦味を目立たなくする技術も発展する。また、コーヒーやお茶に含まれるのは天然カフェインだが、それ以外は添加物だ。飲料だけでなくガムや錠剤でも出回る氾濫ぶりから一目瞭然だが、これら添加するカフェインをつくるのも一大産業で、デカフェをつくる過程で出来たものだけでは足りない。多くは中国で大量製造されているらしい、これら合成カフェインについても、口の重い企業側のことも含めて実態に迫る。

その上で、さてカフェインの特性である。眠気ざまし効果などとともに避けて通れないのが「依存性薬物」という側面だ。そう、確かにカフェインの中毒性は知られるようになった。本書を読むと、その緩やかではあるが顕著に見える依存性が、商品を売る側には大きな魅力となっていることがわかる(リピート効果ほどありがたい特性はない)。だがカフェインの周囲にはアクシデント(死亡事故含む)も絶えず、生活をおびやかす障害の発症例も多岐にわたる。清涼飲料水など糖分も多いものにカフェインが含まれることの弊害や、カフェインとアルコールという組み合わせの効果と危険性(カルーアミルクもそうだった!)、意識せずに多方面から摂取している実情など、カフェインの繁栄を丁寧に描いたからこそ、リアルに迫ってくる部分だ。体質や生活習慣も含めてカフェイン事情には大きな個人差があり、二人で一緒に、同じ一杯のコーヒーを飲んだとしても、効果は同じではないのである。
毎日コーヒーが欠かせないとして困るわけじゃなし、それほど大きな害じゃなし、と、忘れてしまうにはインパクトが大きい。この読後感をお伝えしたいが難しい。本書には人間の営みやささやかな楽しみと共に、それを支えるグローバル産業や業界の内幕が鮮やかに描かれ、そのパワーに圧倒された。この一冊自体に苦味と刺激と中毒性があるあたり、さすがカフェインといったところか。

図書館 司書 関口裕子