この一冊
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なぜニワトリは毎日卵を産むのか 鳥と人間のうんちく文化学
分類番号は648.3。タマゴのことを御所車というけれど、なかに君(キミ)がいるからだそうで、これは本書に載ってなかった。タマゴに関してはきっとまだまだ、まだまだ沢山ネタがあるぞー。卵すごい。

なぜニワトリは毎日卵を産むのか 鳥と人間のうんちく文化学

森誠 (こぶし書房 2015年)
2017/10/10更新201708号
酉年であるからして。
まず、本書と『ニワトリ 人類を変えた大いなる鳥』のどちらにするか大いに迷う。が、コンセプトの面白さで本書をメインに読んでみる。著者は静岡大の生化学教授だった方で、現役時代「講義をすると大半の学生さんたちは寝てしまう」ので「居眠り防止用くすぐり」をたくさんストックしていた。その渾身のネタ帳を、一挙公開。マクラがうまい落語家さんの「マクラだけ寄席」のようなもので、お値打ちではないか。
案の定、面白い。すいすい読めるな、と思った。
が。
卵とニワトリのトリビアが乱れ飛び、イッキ読み卵漬けで鳥酔いしそうになる。話題のふり幅も『ロッキー』から井原西鶴に飛んだり、アダムとイブからトキの話になったりとなかなかに激しい。
これはネットサーフィンし過ぎた時と同じじゃないか、と、メゲそうになったが、やっぱり面白いもんだから鳥酔いが醒めるとまた読む、そのうちに考えた。
まぁ例えば「この章を先に読もうかな」というようなアレンジは読者にもできるけれど、でも文章の中身の順番は、やはり著者のもの。本とは基本的に、著者がネタの配置を決めるものだよね。
本書のようなトリビア本は、その配置の按配こそが、肝なのではないか。

第一章に「みんな大好き卵のウンチク」をもってきたのはさすがである。「食べる卵」を読む楽しさがいっぱいだ。握り鮨は「三秒の芸術」で、卵かけご飯は「世界最速のスローフード」などというフレーズが連射され、昭和初期のエッセイの「鶏卵飯」が引用されたりするともはや夜食テロである。オムライス、オムレツとわくわく読み進めるうちに、気づけば章すら移っていた。あっちゅう間だ。美味しい話以外にもいろいろあるなぁ。というか、卵は歴史から語っても、その優れた性質を語っても、産んだ鳥について語ってもいい。食べ方を問わない。万能だ。
もう一冊の『ニワトリ』も読むとふかーく納得するのだが、ニワトリと人間は、切っても切れない間柄で、卵としても鶏肉としても存在はビッグ。食べる以外でも占いに使ったり羽根を飾りに使ったりと身近であった。僅か0.3ミリしかない卵の殻は、JIS規格にも適合するほどハイスペックで、長細い方向だと3キロもの圧に耐えることができる(なのに内側からならヒヨコでも割れる。どんなだよ)。細菌対策まで自力でしているそうだ。来るべき宇宙時代にニワトリが宇宙旅行に耐えられるかの実験もされており、どうもクリアできそうとのこと。育ててよし食べてよし飾ってもよしという存在は、うん、尊い。
こういった万能コンテンツだと、ついついその有用性から強調してしまいそうなのだが、本書はまず「食べ方いろいろで」「おいしいよね」というところから切ってきた。それは正しいと思うのである。人類が、こうまで卵やニワトリと共にあるのは理屈ではないのであって、それが美味しくて、便利で、自然だったからだろう。研究はあとからついてきたものだ。まずは食べるのだ。
ウンチク本は、知りたいと思わなければただの羅列で、興味が失せたらそれで終わりな趣があったけれど、本書を読んで印象が変わった。内容が卵細胞とか専門的な難しい話になっても、さくっと「クーリッジ効果」の爆笑エピソードに移ったりして飽きさせない。しかも、本筋からは逸らさない。匙加減が絶妙である。どの歌を選んだかだけでなく、その並べ方も選者の腕の見せどころな、和歌の勅撰集みたいだ。

そういえばだが、クーリッジ効果の話は2冊ともに登場した。ウケるエピソードなのだろう(日本の雌雄鑑別師の話も2冊とも登場。確かにすごい技術)。結局のところ筆者は前述の2冊とも堪能してしまったのだが『ニワトリ』の方は人間とニワトリの、未来の方向性について考察して終わる。本書の方は、かつてニワトリの脚気から、脚気の原因は栄養にあると気づいた明治時代の話がラストとなっている。ちょっと肩透かしに感じたが、これも思えば深い話だ。研究は、始まったところからどう発展するかわからない。つまり、ひとつのものごとを、ただそれだけを見るのではなく、並べて見て、さらに自分でも並べ替えができるようにすることが大切なんじゃないかなぁ。
と、それが満腹気分のいまの感想です。ごちそうさまでした。この本から、今度は、何が孵るか。卵だけに。


図書館 司書 関口裕子