この一冊
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猫も知りたい魚の味 -水産食品を科学する-
分類番号は667。「おもしろく読み通せる切り口」って大事だと思うのです。ネコに限らず、ユニークな切り口によって本はもっと楽しくなると思う。そういう一冊を見つけて行きたいなぁ。

猫も知りたい魚の味 -水産食品を科学する-

鈴木たね子 著 (株式会社成山堂書店 2002年)
2018/02/26更新201802号
当欄は新刊旧刊問わず、館内で気のむくままに図書をご紹介しております。けっこう古い本書ですが、なかなか個性的な一冊なので、特に猫好きさんに呼びかけたい。

食品や栄養や料理について書かれた本は数多いけれど「猫も知りたい」とタイトルに冠づけ、猫ネタをふりまくるという趣向は珍しい。
本書を出版した成山堂書店は海洋や水産などの本にかけては定評がある。著者も、自身を「四十年近く魚の成分、味、鮮度、水産加工品の製造技術などの研究を生業としてきた」とするだけあって、内容は実に本格的。それも栄養学上や生物学上の知識を語るだけでなく、「魚は死に方によって鮮度が違う」「赤身白身は生物分類学とは無関係」「かつお節にかびをつける酸化防止と香味づけのため」「かまぼこの弾力を“あし”という呼び方は英語でも”ASHI”」「酒盗の名付け親は土佐のお殿様の山内豊資」などなど、あらゆるトリビアをちりばめつつ、次々と「魚のおいしさ」や「身近な水産加工品」について紹介してくれていて、なんだかお腹がすいてくるのである。はんぺんを小さく切ってマヨネーズをかけると美味しいオードブルになりますよ、などちょいちょいワナがあり、筆者宅は現在、魚三昧真っ最中である。
また、「なんちゃってキャビア」のランプフィッシュキャビアの缶詰の写真(CAVIARと大書きされた下に小さくランプフィッシュと書いてあるのがミソ)や干し魚をつくる様子を描いた紀元前2500年のエジプト壁画、さまざまなスルメを描きわけた楽しいイラストなど、挟み込まれている絵や写真もセンスがいい。日本のみならず世界各地で賞味されてこられた珍味エピソードも楽しくて旅好きにはうれしいところ。もちろん「美味しい魚を見分けるコツ」「この加工品の原材料は実はコレ」など知っていそうで知らなかったトリビアもありがたい。カルシウム給源としての魚の甘露煮や、噛むことによって子どもの顎の発達をうながすスルメの効能、低脂肪でタンパク質が豊富なかまぼこの良さ、コレステロール値が低い魚肉ソーセージの魅力など、見逃せない魚知識は多いのだ。というか、やっぱりまた食べたくなってくるでしょ。カニかまの項とか、もう食べながら読むべきですよ。

しかしなにより「猫」である。本書の著者は猫飼いなのだ。しかも「生まれてこのかた、猫を切らしたことは無いに等しい(さらにみんな拾い猫ときた)」という筋金入りである。なので本書のそこここに「猫あるある」が顔を出す。猫好きはですね、このあるあるネタを読んでいるだけで楽しいのですよ。
そのネタも「魚より貝が好きな猫が食欲不振に陥ったとき、ホタテのエキスをかけるとフードを食べてくれた。ただ本物のホタテからとったものより、ホタテ貝柱のかまぼこのスープのほうが好まれた」など、けっこうディープなのである。これも、食品成分の研究が進み、ホタテ貝柱の旨味が分析されて「より本物らしい濃厚な味」が再現されるようになったからなのだ。
ケッサクだったのは「鮮魚のサンマと冷凍サンマは見分けられるか」という問いに、ある研究者が「わが家の猫は見分けます」と発言して、テレビ局が取材調査に押しかけた、というエピソードである。10匹ほどの猫がのんびりと寝そべる研究者宅に運び込まれた大量の冷凍サンマと鮮魚サンマ。著者は「野次馬として駆けつけた」そうで、いやぁ、絵としてその番組を見たかった。

くさやの製造過程や臭気の成分など紹介したのち「むしりくさやで晩酌していると猫がうるさくて」と猫惚気をしたかと思うと、ふと「帰って来ない猫を待つ身はつらいものです。くさやを焼いてみてはどうでしょう」と結んであるのにホロッと来た。缶詰を選り好みする老猫や、猫缶の上にできるゼラチン部分を好む猫。そういう猫、ホントにいました。

いや、ホントに本格的な一冊なのだけれど。
そこにネコ要素を組み合わせようと思った著者と編集者、グッジョブとしか言えません。


図書館 司書 関口裕子